気着
●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、一人暮らしの中で何か悟りました。
人の目
夫が入院し、しばらく一人暮らしとなった。
去年に続き二度目なので、しーんと静まり返った部屋のよそよそしさにおたおたする
ことはなかった。
むしろ思うことは、一人住まいは自分を厳しく律しないと限りなくだらしなくなるこ
とである。
例えば、使わない部屋の雨戸は開けないとか、部屋が汚れないので、掃除をさぼると
か、多めに作った料理を何度も食べるとか、料理を小分けにしないで、給食みたいに
大皿に盛るとか…そんな手抜き生活に陥りやすい。
一人で居るということは、人の目がないことである。
私は、“豚もおだてりゃ木に登る”タイプで、人の目があれば張り切ってしまうのに、
誰も評価してくれなければぐうたらなのだ。
つくづく見栄っ張りだなあ、と思う。
でも、人間それが自然なのではないだろうか。
いつも取り繕っていると疲れてしまい、まして心配事があればなおさらだ。限りなく
自分の存在が消えて別の意識へ集中する、あるいは何も考えないで弛緩する、それは
必要なことで体が要求しているのかもしれない。
ただ、こんな一人暮らしの生活が続くと、完全に独善的で自己中心的になりそう。
人の目が自分を律してくれるのは大事なことのようだ。
もっと話を広げれば、人は人の目、つまり世間の目があってはじめていっぱしの人間
になるのではないだろうか。