思いつくまま、気の向くまま
  文は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせー、「青い」安倍首相を叱ってます。





むかし恋しい


かたづけものをしていたら古い写真がでてきた。

庭先で、祖父母と兄とまだ首のすわらない老生が母親にだかれている。

父親がいないのはきっと赤紙の招待状をもらったあとだろう。

この家も庭も昭和20年の空襲ですべて灰塵と化してしまった。

兄には記憶があるが老生には記憶の片鱗もないこの家が、戦後親類縁者から耳にタコ

ができるほど「おまえの生まれた家はねー」と聞かされた豪邸である。

わが家は典型的な戦争没落家族である。


歴史の彼方の写真を見て人はどう感じるだろうか。

「へぇーおれの家はすごかったんだ。ま、いまのおれには関係ないや」と、現実の生

活を大切にする人がほとんどであろう。ところがまれに「自分の家はこんなにすごか

ったんだ。なにがなんでも再建しなけりゃ」と自分の能力はたなにあげて全てを犠牲

にして豪邸再建に突進する人がいる。


安倍首相は典型的な後者のタイプである。

見たこともなく、先人がどのような苦労のうえに建てたのかも知らないで、ひたすら

聞いたことと自分の空想をごちゃまぜにして、いっさいまわりを見ないで形だけの豪

邸の再建をしようとしている。


安倍はアメリカのポチだと言う人がいる。なんでもアメリカの言いなりにしている様

子を見るとそう言いたい気持ちもわかるが、戦後日本の成り立ちを考えるといたしか

たがない面も理解できる。

問題は、そのポチがどのくらい飼い主のことを理解しているかにある。

安保法でゴタゴタしているうちにアメリカの戦略はどんどん変わっている。シリアに

対するロシアとの妥協をみればわかる。もっとわかりやすいシグナルがアメリカから

発信されている。先日の国防会議の議事録から「普天間基地の代替え基地は唯一辺野

古」という文言がはずされた。これは翁長知事の合理的(西欧人は合理性に弱い)な

説明に理解を示したのと、いつまでもモタモタしている日本政府にいやけがさしてき

たからではないかと思う。アメリカは先をみている。米ロ、米中の接近も先の先をみ

た結果であろう。アメリカの戦略を理解しないで、撃ったの、撃たれたの。助けるだ

の助けられるなどと古典的な問題に固執している安倍首相は夢想の世界をおよいでい

るとしか思えない。


むかし恋しいは、ふつうの生活ではほろにがい思い出だが、国政の場でそれを振り回

されてはこまる。そのうえ「一億総活躍」なんていう敗戦間近にあったようなスロー

ガンがでてくるようでは首相の品性までうたがってしまう。「むかし恋しい」は「銀

座の柳」だけでけっこうだ。


戻る