●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、A子さんに感心しました。



失敗は水に流して


昔、といっても十数年前のこと。

私たち高校時代の仲良し4人組が毎年旅行をしているのを知ったやはり同窓生が1日ドラ

イブに誘ってくれた。4人の女性をまとめて1人の男性が面倒を見ようというのである。

なにしろ口のうるさいおばさん4人に囲まれるのだから、傍から見て、これを果報という

か気の毒というか、意見の分かれるところではある。

私たちはとにかくアッシー君をかってでてくれたのだから有難くお受けすることになった。

行先は秋の白駒池。

その日は快晴で絶好の行楽日和だった。朝6時半新宿駅集合、皆、まだ行ったことのない

白駒池に思いを馳せてワクワクとして集まった。

そのときの女性の出で立ちはというと、スラックス姿ではあるけれど、ハーフコートやジ

ャケットにショルダーバッグにフラットシューズ。A子さんに至ってはヒールがないとは

いえ革靴。ほとんど街歩きと変わらない。

経験がないというものはまったく困ったものだ。皆、ドライブというイメージにとらわれ

て山であることを忘れていた。

今だったら山ガールの情報が溢れ、ある程度のそれなりの格好をつけるであろうに・・・

やがて、目的地に着き、麦草峠の白駒池パーキングに車を止めて、池を目指して歩き出し

たときに、女性たちはようやく気が付いた。なんと場違いな服装をしてきたのかと。

4人の女性は顔を見合わせた。

そのとき、A子さんはこういったのだ。

「服装のことで何か言わないでね。もうこういう格好をしてきちゃって着替えることは無

理なんだから。くよくよ後悔してそんなことでこの旅をつまらないものにするのはやめま

しょ」

まったく同感である。

考えても詮のないことは考えずに前へ進むしかないのだ。

前向きのA子さんはいつだって自分を窮地に陥れる要因はすぐ水に流してしまい、自分を

責めたりはしない。だからいつも明るく今までの人生を乗り越えてきたのだろう。

私は違う意味で後悔しないことに決めたのだ。

事にどう向き合おうと自由ではないか、すべて危険は自己責任。楽しまにゃ、損損と。

さて、白駒池へのハイキングはすばらしいものだった。

黄色く色づいたカラマツ林を過ぎると、苔のむした原生林、木の根っこが張る山道、大き

な岩が立ちはだかる見晴台。

私たちは、まだ体力の充実した年代だったので、場違いな服装をものともせずに無事に行

程をこなしたのだった。


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