●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、友人の体験からそれについて考察しました。



おもてなし


日本はもともとサービス大国である。

そして、6年後のオリンピックの開催国に決まるやいなや、ますますきめの細かいおも

てなしをめざして官民総力をあげているようだ。

だが、ちょっと冷静に考えてほしい。価値観の違いとか、相手は何を求めているかを理

解していないと的を射ない勘違いになってしまう。


以下は最近スイス人一家を接待した友人からの報告である。

ペンフレンドである夫婦が子供3人を連れて日本に遊びにきたので、友人は自宅で昼食

をご馳走することにしたという。

まずお茶と和菓子を出してから、おもむろに食事。メニューはなるべく普段着の日本を

知ってもらおうと、肉じゃが、鳥のから揚げ、ポテトサラダ、炒め物やお吸い物など日

常の家庭料理にしたそうだ。

ところが食べ盛りの子供3人と体格のいい大人二人なので、あっという間に出した料理

はなくなり、その大食いぶりに驚いたという。

日本人の食べる量に慣れている友人は大慌てで料理を足したり、温めたり、大忙しで、

台所と客間を行ったり来たり。気が付くと、ろくに話もできずに帰る時間がきてしまっ

たという。あれも話そうこれも話そうと思っていたのにと友人はがっかり。招かれたス

イス人親子もコミュニケーションがとれずあまり楽しそうではなかったという。

日本人は人を招いたとき、料理に非常に気を遣う。量はもちろん、温かいものは温かく

冷たいものは冷たくとタイミングを重視して、体裁よく盛り付け、それがおもてなしと

思っている。当然主婦は席に居たり居なかったりで落ち着かない。

ところが欧米では話が主役でパーティーの女主人はでんと席について話題を盛り上げる

のが役目なのである。

友人の場合、楽しい話がご馳走という価値観と料理に重きを置く価値観のずれで失敗し

たケースだ。

こんな行き違いはほかにもある。例えば日本旅館で玄関に女中さんが一斉に並んでのお

出迎え風景とか、やたらとしつこいアナウンスとか、品物の過剰包装とか、日本人繊細

な神経の表れによるサービスは枚挙にいとまがない。

外国人との習慣の違いとか価値観の違いとかがあるので、日本人が良かれと思っている

おもてなしがサービス過剰や大きなお世話になったりおせっかいにつながりかねないこ

ともあるので気を付けたい。


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