●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、近場に充実した文化財を発見したようです。



佐倉を訪ねて


からりと晴れた秋日和。日盛りの太陽はまだ夏の強さをとどめているけれど、風は乾いて

いてすっかり秋のもの。どこからともなく金木犀の香りが漂う。

ここは小高い山の上にある佐倉城址公園。

江戸時代に土井利勝によって城が築かれ、明治時代には陸軍の連隊が置かれたという歴史

をもつ。

周囲を深い木々の緑に包まれ広々とした広場の上の一角に立つと、高く澄んだ青い空がど

こまでも続いていて、日頃の屈託がどうでもよくなってしまうような開放感に包まれる。

荒々しい自然の環境とは異なり、よく整備された公園では、穏やかな安心感と人の営みを

いとおしく眺める自分がいる。

今日の目的地の一つ、国立歴史民俗博物館はこの広大な公園の一角にあった。

十分な敷地があるせいか、1階と地下で十分な展示室が設けることができるため一階建て

である。平屋建て風の建物には圧迫感はなく、ここでも青い空に溶け込んでいた。

中に入るとゆったりとした空間のあるつくり、展示室は6つあって、第1は原始・古代、

第2は中世、第3は近世、第4は民俗、第5は近代、第6は現代となっている。

つぶさに見学するとかなりの時間と労力をいるようだ。

そういえば、学生時代、歴史を習うときはいつも古代から始めるので古代は何度も勉強し、

現代史に入る頃は3学期となり時間切れでそそくさと済ませ、まして戦後史のことなど学

校で教わった記憶がない。

ならば、この博物館では中世まではさらりと巡り、近世からじっくり見ようと決めた。

ところがさすが国立である。全国から集まった珍しいもの、また興味をそそるように工夫

された展示で、見ごたえがあり、つい足を止めてしまう。

とうとう現代の展示室の辿り着いたときは、空腹と疲れで、やはり足早に見て回る羽目に

なった。

一通り見たけれどかなり見落としたものがあるはず。2時間くらいの見学では無理なので

ある。それほど充実した博物館だった。

すべて暮らしに密着した世俗の民俗資料だけに、日本人がいかにして精神文化を築いてき

たかを物語る。消費するもの、蓄積していくもの、変化を遂げていくもの、民俗とは何か、

と考えずにはいられない大きな命題がずっしりと心に残る。次はこの博物館だけを目指し

てこよう。

お昼ご飯は館内のレストランで珍しい赤い古代米のハヤシライスを食べた。

午後、武家屋敷を覗いたのだが、すべてが質素で屋敷の裏庭には菜園が作られていた。そ

れは普通の住宅街の中にあって探さないと見落としてしまうような地味環境の中にあった。

佐倉は城下町であり、古い町屋も寺院も点在するけれど観光化されていない。

都心から2時間以内、関東平野の一角で小高い台地と耕作地。文化の高さと農業の豊かさ

でおっとりした県民性をうかがわせる。

日盛りを過ぎて秋風を涼しく体に受けながら、佐倉は静かに穏やかに時を刻んでいるよう

に感じた。


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