●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
名前にまつわる昨今のあれこれ。


キラキラネーム


クラス会で一泊旅行をした温泉ホテルでのこと。

お風呂からあがって部屋までの長い廊下を歩いていると、並ぶ三つの部屋の入り口に名前を

書いた紙が貼ってある。

「あら、団体さんだわ」といいながらがやがや歩いていると、名札には女性の名ですべて最

後に“子”か“江”が付いているに気がついた。

「たぶん、泊り客は昭和生まれのおばさん、おばあさんの団体だね」

「わー、名前で年代がばれちゃう」

そんなことを言って同じ昭和生まれが苦笑いしたことがある。


名前の付け方に流行があり、時代を反映するのは周知のことだが、今、学校の先生の間では、

名前が読めなくて大変なことになっているらしい。

DQNネームといって、男の子なら「望夢」と書いてノゾム、「飛雄馬」と書いてヒユウマ、

といった当て字風のものから「宇宙」と書いてソラ、「原子」と書いてアトム、といったマ

ンガチックなものや、女の子なら「詩緒音」と書いてシオネ、「心愛」と書いてココア、

「摩凛」と書いてマリン、のように妙に気取った名前をつけるものまであって一筋縄ではい

かないようだ。

出席を取る先生のとまどいが目に見えるようである。

密かに先生の間では、こうした凝りに凝ったイメージ過剰の名前をキラキラネームと呼んで

いるのだそうだ。

平成になった頃、女子名簿を見ると、子のつく名前は減りアケミ、ミカといった名が並ぶよ

うになった。昭和生まれがどこぞのキャバレーの源氏名のようだと悪口をいったものだった。

その頃ではなかったか、子供に「悪魔」と名づけて役所で受理されなかった事件があったの

は。実はこうしたキラキラネームの兆候はだいぶ前から始まっていたのだ。ちょうど、大人

も夢中になる劇画が浸透していた頃と重なっている。

さて、そのキラキラネームだが、最近は就職のための履歴書で、過ぎたるキラキラネームの

応募者は採用されないという話を聞いた。

つまり履歴書の名前から親の良識や親の過度な自己満足傾向や、甘やかし傾向、そして親の

レベルや育て方の姿勢まで読み取るわけだ。

それもそのはず、今やどんどんキラキラがエスカレートして、カタカナや漢字の当て字を使

った常識ではとても考えられない突飛な名前も出現しているそうだ。

名前のせいでいじめにあったり、一生を棒に振ったり、歩む道が狭くなったりするのは余り

にも子供にとって可哀相なことである。


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