思いつくまま、気の向くまま
  文は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
センセー、昔の常識が通用しなくなる不安を感じたようです。



どちらがほんと?


三連休の中日、歌舞伎座の並びにあるカレー屋に入った。

佐世保カレーを看板にしている店である。横須賀カレーとおなじように帝国海軍がいたと

ころには名物カレーがあるそうだ。一説には海軍でカレーライスを食べさせていたので地

元にも美味しいカレーライスができたとか。それなら舞鶴カレーや宇品カレーもあるのだ

ろうか。


カウンターしかない小さな店は昼時には混んでいるのだが休日のせいか先客が一人、それ

も入れ違いに出て行ったので店は貸し切り状態になった。

一人のんびりと食べていると30歳くらいの若い夫婦が入ってきた。持ち物をみると歌舞

伎座の幕間らしい。

初めて入る店らしくメニューをのぞきこんでボソボソと相談をしていたが、やがて細君が

「ランチセット二つ」というと店のママが「今日は休日なのでランチはありません。“ま

くあい”セットでいかがですか。おなじようなものですよ」というと「それください」と

いうことになった。

ママが言った「まくあいセット」という言葉の意味がわからなかったのか、細君が壁に貼

ってあるメニューを指して「まくまセットってなんですか」と聞く。たしかに壁のメニュ

ーには「幕間セット」と書いてある。

「幕間と書いて“まくあい”と読むんですよ。芝居と芝居のあい間の休憩に幕が下りるで

しょ。それで“まくあい”」とママが苦笑しながら説明すると「へー、まくまと書いてま

くあいと読むんだ」と二人で感心していた。

するとママが「このごろみなさんが『まくま、まくま』と言うものだからわたしのほうが

間違っているのかと思ってしまうんですよ」笑いながらつづけた。


この問答を聞いていて吹き出すどころか考え込んでしまった。

世の中ママの言葉どおりになってきた。数が多かったり、声が大きいほうが正しく思えて

しまう。オリンピック、TPP,原発、右傾化と、どれをとっても多勢に無勢という雰囲

気になってきた。ものごとを判断するときには、よほどそれの意味するところを考えない

とすべて「まくま」になってしまう。


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