●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
さて、人の心をつかむのはどっちだったか。



シリーズ 街角ストーリー

本屋のバトル


こんな小さな町に本屋2軒は無理だと思った。しかも100メートルと離れていないのだ。

案の定、去年1軒がつぶれた。

A店は親の代から本屋を営む地元の店で、ライバルのB店は駅に近い3階建ての雑居ビルが

完成したときに1階で開業した。

私は二つの本屋を注意深く観察してどちらを贔屓にしようかと考えた。

A店は八百屋の隣にあり、その延長で店先に台を置き、まるで野菜や果物のように雑誌や週

刊誌を所狭しと並べ立てていた。本を大根やかぼちゃと一緒にするとはあんまりだと思う。

さらに子供向けのガチャガチャ機が置いてあったり、目立つように付録をぶらさげたり、店

構えは雑然としている。いかにも場末の本屋という有様だった。

一方、B店は一応ビルの中なので、自動ドアで出入りをするようになっていて、雑誌、新刊

書、文庫本などコーナーごとに分けて整然としていた。話題になった本などの品揃えも豊富

である。ゆとりのあるスペースで、落ち着いて本が選べ、大人っぽい雰囲気がある。

だがそのぶん、入りにくい。

地元と新参者の対決なので、古い住民の私は大いに迷った。

そこで、視点を変えて店主に注目してみた。

A店主は50歳前後。童顔でおとなしそうで黒縁眼鏡をかけている。いつもせかせか動いて

いて落ち着きというものがない。鼻が赤いのは酒好きのせいか。でも、近所の人の話では地

元で一番の高校を秀才で卒業したという。

B店主もやはり眼鏡、それも銀縁で端正な顔によく似合っている。40歳台でちょっととっ

つきにくいけれどインテリな雰囲気が漂う。暇なときは店主自身も本を読んでいて、がつが

つと売り上げに腐心していないように見える。ミーハーで見栄っ張りの私は、本屋はやっぱ

りこうでなくちゃ、と思ったりした。

ところが、世間の目は違っていた。つぶれたのはB店だったのだ。

A店は見た目はダサいけれど、さらけだすという特色を持ち、親しみやすさや子供も味方に

つけた。

あのインテリ店主のいるB店は、マニュアルどおりの店構えで工夫がなく心の通わない商法

だったのだ。そして、決定的な敗因は立ち読みがしにくいことだった。


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