思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、でっかいイコンに感激のようです。



露国赤毛布

9.血の上の救世主教会





「前回の文中、〔「宗教は麻薬である」と言ったレーニンの言葉〕とあるのは〔「宗教は

アヘンである」と言ったマルクスの言葉」〕の間違いです。お詫びして訂正いたします。」

と、テレビの真似をしてみた。

昨今のテレビでこの言葉を聞かない日はない。いずれもニュースかそれに類するワイドシ

ョーに多い。文字の読み違えはまだしも関係のない人が犯人にされたり顔と名前がちがっ

ていたりする。正確さを必要とする報道番組がいいかげんではこまる。と、偉そうに言う

が自分でやってしまった。実のところココ通に出した後、なにかに引っかかるものがあっ

て頭からはなれなかった。調べてみるとこの始末である。引用文はうろ覚えで書くと恥を

かく。


さて、昼食をすませるといよいよ血の上の救世主教会行だ。今回の旅行の主たる目的はこ

の教会のイコンを見ることにある。

絵は特別好きではないのだが、仏教、キリスト教を問わず宗教画には興味がある。とはい

っても泰西名画に描かれた物語性のある宗教画はあまり好まない。仏教なら諸仏、キリス

ト教ならキリストか聖人がシンプルに描かれた壁画がよい。なかでもビザンチン様式で描

かれたモザイク画とまだ見たことはないが敦煌の壁画が好きだ。ではどこがいいのかと聞

かれてもこまる。感性を言葉であらわすのはむずかしい。好きなものはすきなのである。


血の上の救世主教会は1907年完成と歴史が浅い。1861年農奴解放令をだした開明的な皇

帝アレクサンドル2世が1881年革命派によって暗殺された地に建っている。さまざまな改

革に力をそそいだ皇帝も革命派のお気にめさなかったようだ。

血の上の救世主教会は、父の死を惜しんだ息子アレクサンドル3世によって25年の歳月

をかけて建立されたもので、内外ともにモザイクで装飾されている。外観は鎮魂の教会と

しては奇異であると非難する声もあるようだが、アレクサンドル2世の無念の怨霊があら

わされていると思えばぴったりだ。当代一流の画家によって描かれたモザイク画によるイ

コンに埋め尽くされた内部はすばらしいのひとことにつきる。イスタンブールにある5世

紀のコーラ修道院現在のカーリエ博物館のモザイク画やフレスコ画もみごとだがここと比

べるとスケールがちがう。大きいことはいいことだ。

特別宗教画に興味がない人でも、倶利伽羅紋紋のお兄いさんの背中をながめる気分でみる

とその美しさに引き込まれることはまちがいない。

ここは、ソ連時代はジャガイモの倉庫として使われ、ポテトの教会とよばれていたそうだ。

しかしそのおかげで大きな破壊からまぬがれたことはよろこばしい。ソ連崩壊後は、入念

な修復作業によりおおむね旧態にもどっている。


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