●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
雅人もどきさん、墓地の風情も楽しみます。
墓桜
GWが過ぎて春が逝こうとしている。今年の春は3回墓詣でをした。
まずお彼岸中に横浜にある我が家の恒例の墓参り。お彼岸が終わったあと、久しぶりに高尾
にある実家の墓参り。そしてついでがあったので興味本位で寄った巣鴨の染井霊園である。
横浜の墓地は凸凹した地形に、だんだん増殖していったようなアトランダムな佇まい。高尾
霊園は小高い丘の上に整然と並び、山に囲まれ、幽玄な雰囲気。染井霊園は都会の中にあり
ながらそこだけすぽんと静寂に包まれ、若葉の緑が美しいオアシスのようであった。
三つの墓地は立地による個性がそれぞれ出ていて面白い。
見ているとお墓というよりはそれぞれのお住まいを訪ねている気がする。お墓の佇まい、規
模や形や手入れなどからこの中の住民は生前どんな暮らしをまた人生を送ったのだろうか、
とあれこれ想像するのは楽しい。
そしてこの三つの墓地には共通点があった。それは墓地の回りとか道に桜があることだ。
最近、墓桜という言葉があるのを知った。そんな言葉があるほど多くの墓地では日本人の大
好きな桜を植えて墓守をさせているのだろう。
それは、西行の有名な歌“願わくば桜の下にて春死なんその如月の望月の頃”
にあやかっているのかもしれない。
日本人なら誰でも共感できるこの気持ち、でも、この西行の桜は山桜なのである。染井吉野
と山桜とはだいぶ趣が違う。
山桜には心の奥深く沁みるような癒しがあるけれど、染井吉野の桜はあの華やかさで、我を
忘れ浮かれてしまう目くらましのようなものがひそんでいて、だれかれとなく人を集める。
“染井吉野”発祥の地の染井霊園は仕方がないとして、染井吉野桜はお花見の名所にまかせ
て、お墓にはやっぱり山桜が似合うと思う。