●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの新シリーズ最終回、眼力のある人の目。
シリーズ ファッション考
第三の目
あるデパートのカリスマ店員の話。
「試着室からでてきたお客様に、すぐには、『よくお似合いになります』なんていうリッ
プサービスはいいません。心がこもっているかどうかはすぐ見破られてしまいます。まず
真剣なまなざしで眺め、一拍おいてから『お似合いです』と告げ、さらに『これでしたら、
こんな風にも着こなせます』とか、『これもいいですが、こちらのもお似合いだと思いま
す』といった、イメージを膨らませる提案をさせていただきます」
人は自分の目だけでは自信のないときがある。次に頼るのは自分を知る家族や近しい友人
の第二の目。でもそれも身びいきがあって冷静な判断とは言いがたい。そこで自分とは無
関係な立場の他人の第三の目が必要となる。
第三の目は非情で他人事の目でもある。
試着した客はその服に新しい自分を発見したいと願い、その服を着た未知の場面を想像す
る。そのとき新しい服を着こなすための背中を後押しする第三の目がほしいのだ。
カリスマ店員はそのところを心得ていて、マニュアル的なホメ言葉でなく、しかも第三の
目で無味乾燥な専門的な判断でもない、客の夢や願望の輪郭を広がせ、客に自信を与える
言葉を用意するのである。
大げさにいえば、服を通してより深い人生のシーンを与えるような味わいのある言葉。
これは他の分野にも応用できるかもしれない。
因みに私の絵の先生は、「絵を描くことは究極の自己満足です。それでもいいのですが、
第三者の目に触れなければ価値はでてきません」といっている。
(シリーズ ファッション考は今回にて終了します)