●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの新シリーズ8回め、かっこよさの理由。



シリーズ ファッション考

ネクタイの秘密


男のスーツ姿はかっこいい。

どんな人でも凛々しくみえるし、また、どこへ出ても通用する。

背広にネクタイは男の勝負服なのだ。

スーツはデザインも色も大きな流行がなく画一的なので、唯一自己主張をするのはネク

タイである。ならば、ネクタイが締めているご本人自身のセンスなのかというと、さに

あらず。

大体男はファッションに対して受身な傾向がある。

拘りのネクタイでさえも奥さんや恋人からのプレゼント、というケースも多いのだ。

たぶん多くのサラリーマンのお父さんは朝奥さんが「はい、これ」と出したネクタイを

そのまま締めて出勤したりして、自分の好みとは程遠かったりすることがある。

そして思うに、男の背広にネクタイ姿には肩書きやら出世やらスキルやらとさまざまな

拘束がつきまとっているような気がする。競争社会で生きる象徴だといえなくもない。

だから男はときどきあの首を締め付けているネクタイから逃れたいと思うのだ。

くつろぎたいとき、ホッとしたとき、必ずネクタイを緩める。ときには暑さの中ネクタ

イをはずして胸ポケットに入れ、放心したように公園のベンチに座っている姿がある。

きっと心の中では「会社がなんだ! 勝ち組がなんだ!」なんてつぶやいているのかも

しれない。

それは鬱屈した心と疲れた体を無防備になってさらし、癒しているのであろう。仕事の

達成感も劣等感からも解放されたいと思ういっときなのだ。

やがて、男は我に返ってネクタイを締め直して再び現実に戻るのだ。

男のネクタイにはおしゃれアイテムとしてきらびやかな反面、そうした悲哀やら、切な

さやら、うらぶれを秘めているような気がしてならない。

だからこそ、男のスーツ姿はかっこいい。


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