思いつくまま、気の向くまま 文と写真は上一朝(しゃんかずとも)
シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、北の国への心踊る到着です。
露国赤毛布
2.しょうたいみたり
飛行機はJAL、日本航空だった。格安旅行には後進国の安い飛行機がつかわれることが
多いのでラッキーだった。やたらに座席をふやした中国やベトナムの航空会社とくらべ
ると機内はゆったりしている。日航メークでビシッときめたスチュワーデス、(おっと
いまはアテンダントと呼ばなければおこられる)も、なつかしい姿だ。
インターネットで座席の予約をしたときには満席だったのが三分の二くらいしか乗って
ない。これではJALもたいへんだ。もうこれ以上乗ってこないとわかったとたん、オバ
サン達の顔に安堵の表情がうかんだ。なにかをたくらんでいる。
昼の11時に離陸した飛行機はマイナスの時差で朝にむかって飛んでいく。
食事の時間がくるころにはオバサン達はうちとけて旅の自慢話がはじまった。
そのうちの一人が、「わたしは、まずビールをたのむの。食事がでたらワインね。その
あとお茶かコーヒをたのんで最後に水をもらうのよ。このごろ水を持ち込めないでしょ。
ゲートを通ってから買うのもしゃくだし、ペットボトルでくれるからあとがらくなの」
とベテラン風をふかすとたちまちのうちに、やれ、ルフトハンザはどうだった、キャセ
イは、KMは、BAはと世界中の航空会社の食事風景がとびかう。いったいこの連中はな
んなのだ。
食事がおわると彼女らの本領発揮となる。空いた席をみつけるとさっさと移り、ひじ掛
けをはねあげて三席分か四席分の簡易ベッドができあがる。もちろん毛布もたっぷりと
かけて。われわれも寝転がったのはもちろんだ。
飛行機は爆睡する人、一睡もしないで映画を3本見たという人、律儀に席を動かなかっ
た人を乗せてモスクワ空港へ到着した。現地時間の夕方5時、まだ日差しが明るい。
時間がかかるとおどかされていた入国審査も簡単に済み、荷物を受け取って迎えのバス
を待った。この間、オバサン達の行動にはひとつのむだもない。実に旅なれている。
さあ、オバサン達の心配もなくなった。シャンさんの露国赤毛布のはじまりだ。