●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、だれかを怒らせちゃったようです。
朝顔と私の関係
朝晩冷え込む十月になったというのに朝顔がけなげにまだ咲いている。
というよりは何かに憑かれたようにこれでもか、これでもかと咲いている。
確か6月の中旬、真夏の日差しを遮るためにプランターに種を蒔いて西側の窓の下に置いた
のだった。
ものぐさの私はただ水遣りだけで肥料もやらなかったのだけど、順調に葉が茂り、ツルはぐ
んぐん上に伸びていった。だが、肝心の花は八月になっても一向に咲かなかった。
二ヶ月たった頃、私と夫は朝顔の悪口を言ったのだった。
「なに、これ、花の咲かない朝顔ならただの水泥棒」
「これじゃあ、雑草と変わらないね」
朝顔はこの会話を聞いていたのだろう。翌日から猛然と花を咲かせ始めた。二つ三つ、そし
て、五つ六つ。
まるでやけになったように、九月は毎日欠かさず咲き誇っていた。しかし花が咲き出した頃
は、葉は黄ばみだし、タコ糸を適当に縦横に渡しただけの支柱にツルは伸び放題、絡み放題。
その様子は朝顔のカーテンとは似ても似つかぬみすぼらしい風情なのだ。
黄ばんだ葉の間で今にも倒れそうなよろよろしたツルにすがって花だけがカッと咲いている
姿は痛々しくて見ていられない。
つまり、朝顔は私に当てつけに咲いているのだ。
水遣りだけで、肥料もやらず、十分手入れをしてやらなくてごめん。
悪口をいってごめん。
ちゃんと朝早く起きて花を見てやらなくてごめん。
だからもう、なりふりかまわず花を咲かせなくてもいいからね。
私は毎日朝顔に謝っている。