●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、自分を含め、女性と文学とのかかわり方を考察しました。


本と私の関係


腰痛、膝痛に良いというので太極拳を習い始めた。

10人ほどの仲間だが、その中の読書家2〜3人が本の回し読みをしているという。早

速私もその仲間に入れてもらった。

どんな本が回ってくるのかとわくわくしていたら、まず岸恵子の『わりなき恋』、そし

て平岩弓枝の『女の家』そしてたてつづけに直木賞受賞作『ホテルロイヤル』『爪と目』

であった。

興味があるけど恐らく自分では買わないだろうな、という本が読めるのが回し読みの良

い所である。

さらに主婦の読書傾向と感想が聞けるのが楽しい。

「プライドが高くインテリ女優の岸恵子にしては、かなりあけすけに書いてあるけど、

内容はどこにでもある不倫話にところどころ自分の教養をちりばめただけよね」

「平岩弓枝はさすがに読みやすい。次はどうなるかとどんどん読めちゃうわね。でも、

さすが後半になると面白くさせようとする意図が見え見えでしらけるちゃう。やっぱり

ストーリーテラーなのよ」

「ホテルロイヤルは面白かった! 人生の裏表を知り尽くし、男女の機微を知っている。

ひとひねりあるのがいい。すごい大型新人ね。女浅田次郎?」

「この歳になると暗示とか、リアリティのないものはちょっとね。爪と目は何気ない日

常に潜む現代の心の闇を暗示しているのだと思うけど、なにこれ? ってちょっと違和

感があるともうダメ」

トウのたった主婦たちは物事をズバリと見抜いて、取捨選択に迷いはない。人生経験を

たくさん積んだ自信なのだろうか。

昔、文学好きの父がしみじみ私に言った。

「あまり本に夢中になると浮世離れしてしまうからいけない。その世界から抜け出せず

現実を見失ってしまうからね」

その父は商売が傾いているというのに趣味の短歌雑誌に相当金をつぎこんでしまったの

で、実感をもってそんなことを言ったのであろう。

けれども主婦の読書は違うのだ。

日々繰り返しで追われる家事をこなす世界は狭い。子育てもパートに出るのも趣味にい

そしむのもすべて家庭を守る枠をはみでることはない。主婦になって、結婚生活という

ものは現実そのものであってロマンの入る余地はないことを知っているのである。

つまり女の読書は現実から知り得ないロマンや異体験や知識を追っても最後には現実に

戻るのだ。だから小説の筋に必然性と具体性がないと評価がさがる傾向があることがわ

かった。

私は父の教えのとおり(?)本にのめりこむこともなく現実路線を貫いたのだが、本を

読むことは浮世離れになることではなく現実の世界をさらに深めてくれるのだと確信し

ている。


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