●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの半信半疑。



シリーズ 信仰心

ご先祖様

我が家には神棚はないが仏壇がある。

夫の両親が亡くなった時点で長男である夫の元にやってきたのだ。仏壇にはお位牌が7

つも入っていて代々続く家の重みを感じる。

ひとつひとつお位牌を手に取り夫から説明を聞いたけど、見たことも話したこともない

ご先祖様には一向に心が通わない。私はそれを守る責任を課せられたという自覚がない

まま、適当に花をあげ、思い出したように水とお供物をあげ、頼みごとがあるときだけ

お線香を立てチーンとおりんを鳴らし手を合わせるぐらいであった。

ちょうどその頃は、二人の子供がまだ小さく子育て真っ最中で、毎日が目の回るような

忙しさなのだった。

そしてある日、私は常に胃痛があるのに気がついた。夫の姉が病院に勤めていたので、

そのコネで受診すると十二指腸潰瘍だという。それも穴が開きそうなほど重いのだとい

う。即入院だった。

義姉はとても心配して、勤務の合間をぬって毎日私のベッドに訪れ、何がそんなにスト

レスだったの? と聞く。私には格別思い当たることはないので、胃が悪く晩年入退院

を繰り返していた父を頭に浮かべ、遺伝的に胃腸の弱い家系なでしょう、と答えた。

その義姉は当時占いに凝っていて、早速私の容態を占ってもらったそうだ。すると占い

師は仏壇がないがしろにされていて、それをご先祖様が嘆いているのだという。私は俗

にいうバチが当たったということなのだろう。

義姉は弟である私の夫に毎日欠かさず仏壇には水とご飯を取り替えるよう、厳命した。

私はその後一週間で退院できたが、それは信仰となって今も夫の日課として続いている。

夫は言うのである。「やっぱり先祖は敬わなければいけないんだね……何事もご先祖様

はお見通しなのだ」と。

確かにご先祖さまに想いを馳せるのは大事なことだけど、本当にこの仏壇の中に御霊は

いらっしゃるのだろうか。お墓の中かもしれないし…いや、もしかしたら歌のように

「千の風に乗って」いるのかもしれないし……

ふつつかな嫁の私は仏壇係りはすっかり夫におまかせで、いまだに横目で仏壇を眺めて

いる始末である。


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