●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんの気軽な初詣。



初詣

元日、おとそとおせちの祝い膳を頂き、年賀状を読んで一段落したのは午後2時頃であ

った。外は日差しも明るく風も穏やかなので腹ごなしに近所の八幡神社へ初詣に出かけ

ることにした。30年近くこの地住んでいるのに初詣を元日に行くのは初めてである。

坂を登ったこんもりとした森の中にある神社に近づくとやたらと人通りが多い。嫌な予

感がした。きっと混んでいるのだろうな……。

案の定、神社の参道は人でいっぱいで、入りきれない人々が列を作って境内を取り囲ん

でいる。その長さなんと100メートル以上はあるだろうか。きっとお賽銭箱までにた

どり着くには1時間はかかるだろう。時間帯といい、お天気といい、皆考えることは同

じで初詣に繰り出したのだ。

静かな地元の神社で新年のお参りをと思っていた私はすっかり出鼻をくじかれた。並ぶ

のが嫌いな私はすぐお参りをあきらめる。私の信仰心はその程度なのだ。

でも手には昨年の破魔矢をもっていたので、とにかく古いのをお炊き上げにしてもらい、

新しいのを買ったら帰ろうと思った。

脇道から境内に入ると、普段閉まっている能舞台でお神楽が演じられていた。これも初

めての経験で物珍しくしばらく観賞して写真に収める。なーんだ、自分は物見遊山のノ

リできているのではないかとちょっと気が咎めたが、やっぱり帰ろうと人ごみを出ると、

境内の片隅に犬小屋のような祠が目に止まった。近づくとお榊が飾られ、小さなお賽銭

箱までも備えられている。

私は、あっ、ここでいいや、としゃがんでお賽銭を入れて欲張って家内安全から無病息

災まであれやこれやの満願成就を祈った。拝んだ後に後ろを振り返ると、なんと驚いた

ことに私の後に5人近くの列ができているではないか。一人範を垂れると右に倣えとば

かり、またまた同じように考える人がいたのである。

これだけ大勢の人が詰めかけた初詣だけど強い信仰心に支えられている人は少ない証か

もしれない。

初詣といっても、神社とかお寺とか特に拘らない人も多い。とにかく拝んでおけば間違

いはないとまったくいい加減なのだ。いかにも八百万の神が存在する日本らしい風景で

ある。でもそれで気が済んで気持ちよく一年が過ごせればいいのではないかと思った。


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