5/21のしゅちょう             文は田島薫

(患者の恐怖について)

私のおふくろは胃がん全摘3年後の定期検診で影が発見され、3週間後の再検査です

い臓がんの末期と確定され、担当医からは、手術不能、回復絶望と言い渡され、それ

でも楽天的なおふくろと私は、がんを消す、って謳う民間栄養食品を買い求め、それ

に希望を託してたわけだけど、けっきょくおふくろの精神的安定を支えた大きな助け

は痛み止めだったわけで、痛みが出るたびに絶望的形相で苦痛の表情をしてたのが、

それが激しくなった時、一時入院して、痛み止めの量を調整してもらい、それが安定

して痛みを一切感じなくなった時おふくろは安心し、一応退院し民間栄養食品の効果

にも期待して元気そうになったのだ。

しかし、日に2度飲むその痛み止めをインターネットで調べてみると、モルヒネと同

等の麻薬系で、限界量とされる2倍が調合されてることを知った。

その痛み止めを使わなければならないほどの激痛が体内で起きてるということは、が

んが進行してるということを否定できないわけで、担当医からは、その進行が血液検

査の数値からも決定的だと言われた。

それでもそれは数値だけのこと、免疫力を高めれば奇跡も起こると信じて、おふくろ

にその民間栄養食品のカプセルを日に10個飲ませ続けた。

ところが、おふくろは胃の全摘を受けてることもあり、食べ物の消化能力が低く、少

量づつ時間をかけて食べる状態で、そのカプセルだって飲み込むのに苦労する具合。

いくら叱咤激励し当人もがんばっても、徐々に体力が消耗し、食べる力も弱って来る

と、歩いたり手足を動かしてた運動もしずらくなる。

こりゃ、いかんな、って思ってると定期通院で点滴入院を進められ、おふくろとも迷

った末、決断。けっきょく、そこで新たな激しい苦痛が起き、そのまま衰弱してって

しまったわけなんだけど。

痛み止めが効いてたからでもなんでも、当人がちゃんと食べ運動をし意識がしっかり

してれば、あらゆる民間栄養食品で病巣をやっつけられる気がするんだけど、当人が

食べる力がなく意識も混濁、ってことになると、そういったもんでの回復は望み薄の

気分になるだろう。その上、医者からの検診データ、細胞組織の破壊を表すガンマ〜

の数値が一般の警戒値より二桁多かったのが、今回は三桁多くなってて、いつパタと

逝っても不思議はない、と告げられた時、希望は捨ててないと言い続けてた私も、そ

ばで呼びかけへの反応もできず酸素マスクされて顎で息してるおふくろを見て、おふ

くろにも、苦しい情況になったら死なせてくれるように、って頼まれてたこともあり、

早く楽にしてやってくれ、って思わず担当医に頼んだ。担当医はそれで、酸素マスク

をはずしたわけではなく(医者は酸素吸入されてる患者には炭酸ガス中毒と同じよう

な麻痺があってはずしても苦しさはないはずだって言うけど証明はできない問題も)

絶望情況の中で1,000ccもの点滴もつないだままだったのに、けっきょくそのままこ

ときれたんだけど、これがもし、そんな過剰な点滴や酸素吸入で生かさず殺さずで何

ヶ月も患者が苦しむなら、それは患者自身恐怖だろうし患者以外のだれかのエゴ、っ

てことになるだろう。




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