●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
新シリーズ2回め、心配症の友人。



シリーズ なくて七癖

口癖

「もう、やんなっちゃう・・・」

友人Aさんの口からこんな言葉を何回聞いたことだろう。

息子が結婚しなければしないで心配だし、娘が結婚したらしたで気にかかり、はたま

たお正月に取り寄せたおせちがすごくまずかった、アカデミー賞受賞間違いなしと評

判の映画を観たらちっとも面白くなかった、最近物忘れがひどくなったなどと、生活

のこまごまとした日常茶飯事の“やんなっちゃう”の種を電話でしゃべっては、最後

に「もう、やんなっちゃう、人生思い通りにはいかないわねえ」と締めくくる。

「そりゃそうよ、人生は思い通りにはいかないのが当たり前。そんなに腹を立てたり

いらいらしていると、寿命が縮むわよ」

と私はピシリと言う。

「死んで楽になるなら死にたいくらいだわ」

「あら、死にたいなんて穏やかじゃないわね。あなたの言っていること死ぬほどのこ

とじゃないのよ…本気で思ってんの?」

「うーん、本気かっていわれれば、そういうわけでもないんだけれど…ま、私の口癖

みたいなものね。いってみればあなたのどっこいしょ、と同じよ」

「どっこいしょと死にたいではずいぶん違うと思うけどなあ」

そんなAさん、私が腰痛と膝痛で歩けない、というと、車を飛ばしてカステラもって

お見舞いきてくれた。

「まさか、寝たきりなんじゃないでしょうね」

「まあ、大げさな…」

といってみたけど、Aさんの大げさぶりに涙が出るほど嬉しかった。


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