●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
探究家もどきさん、次々経験を検証していきます。



マスク

料理をしていたらコショウがないことに気がついた。

よし、近くの店に買いに行こう、とエプロンをはずしたが、よれよれの普段着とスッ

ピン顔。いくらなんでもこのまま飛び出すわけにはいかない。まったくこんなとき女

は不便なのだ。そこで、逆の発想でマスクに帽子で身元不明にしようと思いつく。

誰にも会いませんようにと念じつつ、うつむいて道の端っこを忍者歩きしていると、

こんなときに限って、おしゃれしたお出かけ帰りの近所の人にあったりして、「あー

ら、これからお買い物?」なんて声をかけられてしまう。

やっぱりわかっちゃったかあ、と観念して「えへへ」とごまかしたけど、人は顔が見

えなくても意外と体つきや動作でわかるものなんだなあ。甘かった・・・

ところで、顔を隠すのに最適なマスク。いまどき寒さ対策や花粉症がらみでマスクを


している人を多くみかける。マスクは身を守る防具でもあり、衛生上便利なグッヅだ

けど、表情が見えないぶん、さまざまな効用がある。

西洋人には仮面舞踏会なるものがあって、仮面をかぶって身分とおのれを隠し、非日

常を楽しみ羽目をはずす。

日本人も昔から頭巾なるものを愛用していた。身元を隠そうとするときは必ず口元ま

で隠す頭巾やほっかむりをして身を守る。

私も今年の冬は寒さ対策と風邪予防対策でマスクを多用してしまったが、あることに

気がついた。口を覆ったぶん、話すことは遮断され、耳と目がよく働くのだ。それ

は、触覚、嗅覚を閉ざすと視覚、聴覚が活発に働いて不足を補うという自然の生理な

のだろう。しかもマスクをして町を歩くと、物事が他人ごとに見え、まるで自分はこ

の世の住民ではなくエイリアンとして世の中を観察している気分になった。これは忍

者効果だろうか。

一人ならこんな状態を楽しむのもアリだけど、もし、恋人がデートにマスクして現れ

たら、それだけでなんだか味気ないデートになりそう。マスクをすると話すのも億劫

だし、マスクをしている人に話しかけるのもためらわれる状態になり、心が閉ざされ

てしまうからご注意。


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