●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
その道のプロもどきさんの言葉への達観。
言葉は変わる
“メタボがあやつるスマートフォン”
これはスマートフォンが出始めの頃、使っている人をおちょくった一言だ。メタボとスマ
ートの取り合わせが笑える。
つまり日本ではスマートを、ちょっとなよっとしたイメージで細いとか格好がいいとか垢
抜けたという見た目の意味で使われていたから。
ところが最近はやっと本来の、賢いという意味に使われはじめたので冒頭の一言にはおか
しさがなくなってしまった。
今やスマートは節電、省エネ、多機能の代名詞となり、スマート家電、スマート車、スマ
ートメーター、スマートグリッドからスマートライフ、スマート政府なんてことまで、強
く賢く時代を牽引する言葉となり、やたらスマートのオンパレードだ。
以前、私はある痩身教室の情報誌を手がけていたことがあった。その名は「スリム情報」。
そこの社長は一般的に使われていたスリムよりもスレンダーにこだわっていて「スレンダ
ー情報」とするべきだと言い張った。
「キミィ、世間じゃあ、ほっそりとしていることをスリムというけど、本当は美しい意味
も含まれるスレンダーという英語が正しいんだ。わが社は美しく痩せるがコンセプトだか
らスレンダーでいくべきだよ、キミィ」
キミィを連発しながら主張した。
なるほど、英和辞書を引くと同じ細いという意味でもスリムとスレンダーでは微妙に違う
ようだ。
でも、いくら正しくても言葉は使われてなんぼ。広く普及している方が強いのだ。まして、
広告の目的ならば。
社長の抵抗むなしく、マイナーなスレンダーよりも圧倒的にわかりやすいスリムがという
言葉が採択されたのだった。
言葉は生き物、ひとりでに歩いて、ひとりでに変化して、ひとりでに消滅する運命にある。