●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、晩秋の楽しい旅行しました。



真鶴半島

今年の紅葉狩りの旅は真鶴だった。

といっても、今回は“紅葉狩り”というよりも、“美食の旅”かもしれない。なぜなら

半島の森はほとんど常緑樹で覆い茂り、葉は紅葉しないから。

真鶴は小さな小さな半島で、真鶴駅から岬まで、約3キロ。歩いていける距離である。

隣に湯河原温泉があり、自動車道も今では近道ができて真鶴を通らないので、風光明媚

だが観光地とは呼べないほど寂れている。

中央にある高くこんもりとした森は樹齢の古い楠木や松やらで鬱蒼としている。これら

の木々から染み出た栄養が海に流れ、プランクトンが発生し、それを食べに魚が集まり、

人間が漁をする。そんな豊かな自然の循環が生まれているのだ。地元ではこの森を魚付

き林と呼んで、大切にしているという。

小さな湾になった所に漁港が2つあったが、大きな船は見当たらず、地産地消程度の漁

獲量か。いずれにしても新鮮な魚が手に入ることは間違いなく、夕食のお刺身は圧巻で

あった。

宿は岬の突端で崖っぷちにあり、眺望抜群。相模湾の穏やかな海と遠く伊豆の山々が午

後の日差しの逆光で黒々と見える。同行の4人が見つめる中で夕日はあっという間にこ

の山々の中に消えた。

真鶴を有名にしているのは、貴船神社と中川一政美術館。

貴船神社には見事な神輿が2基収まっていて、祭りには急な階段を下り、船に乗せて対

岸へ運ぶのだという。なかなか華やかな祭りで、そういえばテレビで見たことがあるよ

うに思う。

中川一政美術館は見ごたえ十分。挿画、水彩画、書、油絵などその魅力をあますことな

く伝えている。

「じょうずをめざせば、へたになり、へたをめざせばじょうずになる」

そんな言葉が書いてあり、至言だと思った。

横浜から1時間。小さな旅だけどのんびりゆったり、気持ちのよい時間が流れ、同行4

人が戯れに俳句をひねった。

磯菊の   黄色の先に   碧い海           A女

波静か   鳥さえずりし  三つ石浜          B女

小春日に  魚付き林を   散策し           C女

石蕗の   花咲きいよよ  海青し           D女  


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