●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
雪国の坊さん、さて、極楽行きと長生きは同じことだったのか?



壽延

知り合いに豪雪で有名な新潟県、高田の出身のお坊さんがいた。

そのお坊さんから聞いた話だが、

その昔、日本有数の豪雪地帯の高田では、積雪がひどいと家々はすっかり雪に埋まっ

てしまい、どこが村かも分からなくなるほど一面真っ白になってしまうんだとか。そ

こで村人は「この下に高田あり」という高札を立てたというのだ。

お坊さんは、高田という地名に偽りあり実は雪より低いのさ、と懐かしそうに笑って

いた。

都会育ちの私には想像を絶する話で、キョトンとするばかり。

さて、そのお坊さんが還暦を迎えたとき、記念にご自分の趣味である陶芸を活かして

お皿を作り、みんなに配った。

お皿は白磁に大きく「壽延」とご自分の書で染め付けられている。

「壽延」とは越後の方言で「じょんのび」と読み、長生きのことだそうだ。

そして、この地方の人々は風呂に入るときは決まって、「じょーんのび、じょーんの

び」という言葉が口から出るのだという。気持ちの良い湯船の中で命が延びる実感は

ぴったりで、この言葉が大好きとのこと。色紙にも書き、法話にもよく使うと説明し

ていた。

寒いときのお風呂は何よりの楽しみだ。熱いお風呂で冷えた体がゆっくりとほぐれて

いくのは何よりも心地よい。思わず「極楽、極楽」という言葉がでるのだが、所変わ

ればそれが「壽延、壽延」となるわけだ。

今年の冬は寒い。

毎日ニュースになるほど北の国では大雪に悩まされている。テレビ画面に雪で深々と

埋もれた町村が映し出されていくと、寒がりの私は思わず身を縮めてしまう。

今夜も熱いお風呂に入り、お坊さんに倣って「じょーんのび、じょーんのび」とお経

のように唱えてみよう。「壽延」のお皿を下さったお坊さんは長生きできず、すでに

亡くなり、極楽へ逝ってしまったのだけれど・・・


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