思いつくまま、気の向くまま
  文と写真は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、とりあえず神様のご機嫌とりには成功したようです。



山ノ神鳴動す



昨年は、ニュージーランドに続いて東北地方にも大地震が起こった。

地球は大きな地殻変動期にはいったという学者もいる。それと関係があるかどうかわから

ないが、わが家の山ノ神も動き始めた。曰く、「最近どこも出かけてないな〜」。

この言い草には裏がある。真に受けてはいけない。これは亭主の金で「どこも出かけてな

い」という意味であって、自分の金では三月と空けずにどこかしら出かけている。

「寒いから温泉にいこう」とのたまうが、小生温泉は好きではない。返事をしぶっている

と「伊豆の下田に水仙が咲いているからそこはどう」と聞いたとたんに行く気になった。

伊豆は縁あって第二の故郷でもある。水仙の花は好きだし、久しぶりの里帰りもわるくな

い。敵はこちらの弱みをよく知っている。「行く」と返事をするやいなや電光石火の早業

で格安のフリーツアーをセットしてしまった。


宿は「下田プリンス」。往年の高級リゾートホテルである。部屋は広く清潔で全てが海に

向いている。この値段でこの贅沢と得をした気分に浸っている間もなくとんでもない目に

あった。部屋の造作は小洒落ているがどのドアもドタンバタンと大きな音をたてなければ

開け閉めできない。そっとトイレに行くなんて芸当は絶対にできない。メンテナンスが行

われていないのだ。天下のプリンスも一部を除いて落ち目のホテルになってしまった。お

忍びで来るにもよほど相手をえらばないと百年の恋いも覚めてしまうことだろう。旅にで

るとなぜか邪念がわく。


あくる日、水仙の群生地がある爪木崎へ向かうバスは老人センターの送迎バスのようだ。

夫婦ものが三割、あとは老年女性の3〜4人連れ。日本は確実に高齢化社会になることを

証明している。

風も弱く晴れわたった空の下水仙の群生はみごとなものだった。普段は足が痛くて歩けな

いと言っている山ノ神殿のよく歩くこと。古狐の泣き言は素直に信じてはいけない。同行

の元気なバー様方もきっと家ではいまにも死にそうな顔をしていることだろう。

十分に水仙の花と香を満喫したあと下田の街にでた。どこかひと休みできる喫茶店でもな

いかと探していると面白そうな造りの喫茶店を見つけた。しかし、店の前に立つと「本日

ワ安息日デス」の看板がかかっている。しゃれた言葉遣いをすると店の名前をみたら「邪

宗門」。どうもできすぎた話である。


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