●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
オチのサービスがついたおとぎ話。



おとぎ話シリーズ

冬の怪談話

ある夜のことだった。

新年の飲み会があって帰りはだいぶ夜も更けていた。

我が家の最寄の駅を一歩出ると、都心のよどんだ空気とはガラリと違って冬の冷たさが一段

と身にしみる。

駅では15〜6人ぐらいの乗客が降りたのに、道が一つ、二つと分かれるたびに人数が減っ

ていく。

すでにシャッターをおろした商店街を抜け、バス通りを横切り、街灯だけがともる住宅街ま

で来ると、とうとう目の前を行く黒いコートの男性と二人だけになった。

同じ帰りの電車に乗り合わせたというだけの縁で私はなんとなくその男性を頼りにしている。

だがまもなく、その男性も横丁を曲がってしまった。

襟をかきあわせ、たった一人夜更けの道を急ぐ。冷たく澄んだ夜のしじまに私の足音が乾い

た音を響かせる。

間近にこんもりと大木の繁る八幡神社が迫っていた。こんな時間誰も通らない。

「いつも通りなれた道だもの。怖くない…」

自分に言い聞かせ、八幡神社を通り過ぎようとすると、どうしたことか背筋がぞくっとした。

「おお、さむっ。風邪でもひいたかな…」

境内からはみ出して夜空に黒々と枝を広げる楠を見上げると、まるで覆いかぶさってくるよ

うだった。

「あと、少し…」

最後の曲がり角をまがったとき、私は「あっ!」と声をあげた。闇の中から青白い光を下か

ら浴びた髪の長い女の顔がフワーと浮かび上がったのだ。

「出たっ!」心底驚いた。

私が動けなくなって立ち止まったら、女も止まった。

時間にして数秒間。

よくよく見ると女はケ―タイを開いている。青白い光はケータイから発していて、顔を照ら

している。

落ち着いてみると足もあった。

なーんだ、“幽霊の正体見たり枯れ尾花”か。

ああ怖かった。

あなたも闇夜の道を歩きながらケータイを開いていたら、きっと幽霊になれます。



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