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2011年2月28日(月) 読書感想―6

夏目漱石の短編小説『倫敦塔』は25ページぐらいなのにとても難解。明治の言葉だし

漢字は難しいし注釈もたくさんあるので3度読み返してやっと全体が掴めたおぼろげ

に、もうヘトヘト元来の読書習慣のなさが露呈(汗)。

『倫敦塔』は漱石が明治33年10月から約2年間留学中に、1回だけロンドン塔見物し

た時の随筆だが、これが普通の随筆でないっていうか文中にやたら戯曲風な物が挿入

されている。それが本当に難解というかこっちにレシーブ力が無いのか。例えば、

憂いの国に行かんとするものはこの門を潜れ。

永劫の呵責に遭わんとするものはこの門をくぐれ。

迷惑の人と伍せんとするものはこの門をくぐれ。

正義は高き主を動かし、神威は、最上智は、最初愛、われを作る。

我が前に物なしただ無窮に忍ぶものなり。

この門を過ぎんとするものは一切の望みを捨てよ。

……

と言うようなのがたくさん出て来る。

おまけに漱石は塔の中にある石牢内に刻まれた文字や展示物などから想像力たくまし

く歴史上の投獄された王族や高僧や首切り牢役人の出演するわけ判らないお芝居が延

々と繰り広げられる、かと思うと突然現実に戻ったりとなんか錯乱した人の作文とし

か感じない、全然おもしろくない。(ごめんなさい文豪様)

しかし巻末の解説で江藤淳はこの短編には高度な作文技術が随所にあったり、ダンテ

の『神曲・地獄篇』の訳が挿入されたりと歴史的にすごい小説らしい。『倫敦塔』は

明治39年に『漾虚集』という着色版でイラスト入りの短編集に収録され出版、漱石に

とっては『我輩は猫である』つづく二冊目の著書とのこと。しかし、こんな小難しい

やつがなんと初版の4日後に再版が出たなんて信じられない。当時の人は単に文字に

餓えていただけだろ、なんてイヤミを言ってみる。



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