●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
このおとぎ話には、これは事実かもしれない、って思わせるものが。



おとぎ話シリーズ

子狐

お気付きだろうか。

今年は若い女性の間でやたらと毛皮や毛皮風のファッションが流行っている。ことのほか厳

しい寒さに、身も心もふわふわで温まりたいというわけだ。

人工のフェイクファーのおかげで値段も安いし、動物愛護の点もクリア。

ストールはもちろん腰のあたりに毛皮の尻尾をぶらさげたり、ファーの帽子、丈の短い毛皮

風ベスト、あげくはブーツ全体を覆ったりと全身毛皮だらけで、まるで着ぐるみのよう。

「あったかそう〜フワフワ、ポヤポヤ、いやされるう〜さっそく、私も!」

と、思ったら、大変なことになる。

こうしたファッションは若い女子がするからかわいいのであって、おばさんが真似をしたら、

ベストならマタギに間違われるし、毛皮ブーツを履けば雪男、コートならば怪獣になってし

まうので気をつけよう。

さて、怪獣はさておき、ここからがおとぎ話。

昔、子供の頃読んだ絵本に、子狐が人間に化ける術を親狐から教わる話があった。何回やっ

ても子狐は失敗して、ようやく人間に化けるのに成功したと思ったら尻尾を隠すのを忘れて

いたという話。それがご愛嬌でなんとも可愛かった。

もしかしたらフェイクファーで着飾った女性たちは人間に化けるのに失敗した子狐かもしれ

ない。

あちらの街角に駅のホームにと、人間に化け切れなかった子狐が跳梁跋扈しているのかと想

像するだけで、街を歩くがなんとも楽しいではないか。



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