思いつくまま、気の向くまま
  文は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、「三代目の法則」を思い出し納得しました。



売り家と…

友人の夫君は、食事どきテレビに映る政治家に向かって罵詈雑言をあびせるそうだ。

うるさくて食事も落ち着いてとれないので、静かに食べてくれるよう頼んだところ、あく

る日から口をきかなくなったという。それを聞いて「お宅は夫婦の会話がないからな〜」

と言ったのだが、ある日「独り言がふえたわね」と老妻に言われ、おなじことをやってい

ることに気がついた。それをくだんの友人に話すと「歳をとるってそういうことね」とし

みじみ言われてしまった。

世代の隔たりというものは、如何ともしがたい。10年ひと昔というなら、われわれは現

内閣の諸君とは最低に見てもひと昔の隔たりがある。それを同じセンスで理解しろといわ

れても無理がある。


川柳に『売り家と唐様で書く三代目』というのがある。

父祖が苦労して築いた財産も三代目になると財をふやすどころか減らすばかり。やがて家

屋敷を手放す段になったときでも、たったひとつ遊芸で身につけた、唐様という流行り文

字で「売り家」と書く、と放蕩の挙句の没落を皮肉ったものだ。


なにごとも三代にわたって隆勢をきわめるということは大変なことだ。

政治を明治憲法下と現憲法下でわけて考えると同じ事がいえる。

江戸時代に生まれた人が苦労して西欧型近代政治の礎をつくり明治とした。次に明治ひと

桁に生まれた人達が大正時代から昭和初期にかけて世界に通用する近代国家を作り上げた。

ところが明治中期以降に生まれた連中が先代の苦労を忘れ、いい気になって敗戦という形

でご先祖さまの築いた財産を水疱に帰してしまった。この間三代、77年。


敗戦後に目をむけると、占領下という特殊な事情もあって、明治、大正生まれながら占領

軍の意向に沿った政治家が選ばれアメリカ型民主主義の基礎をつくった。世の中が落ち着

くと大正時代に生まれた連中がとってかわって経済の発展に功を奏したが政治形態は先代

のやり方を踏襲するばかりでなんら新しいものを作らなかった。やがて、世の中経済発展

一辺倒という、昭和ひと桁生まれの人間が日本から政治というものをなくしてしまった。

経済一流政治は二流といわれたあれである。そして経済も二流となった今、戦後生まれが

政治を司っているがそれはもはや政治とはいえない。民主主義と「唐様」で書くばかりで

国家の凋落である。この間、おおよそ三代66年。


明治憲法成立から数えて56年で敗戦。戦後憲法下が66年。60年位がひとつの政治形

態で治められる限界かもしれない。還暦とはうまく言ったものだ。

この先必ず新しい政治形態が出現するであろう。いや、そう願いたいものだ。

それまで老人はよけいな心配をしないで、テレビに映る政治家もどきに罵詈雑言を浴びせ

ながら過ごすのがよい。手前だって三代目、財を築いたか…、と。


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