●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
旅行好きもどきさん、仲間とタイムリーな旅行企画しました。



シリーズ 震災余話

花の福島

小学校の同窓生が磐梯熱海で旅館の女将をしている。

原発の風評被害でお客が来ないのではと、同窓生仲間8人が集まって、賑わしに出かけた。

励ますという大義名分をつくって自分たちも楽しんじゃおう、というよこしまな魂胆みえみ

えだ。

天気は上々の晴れで、私たちは2台の車に分乗して空いている東北自動車道をひた走る。

那須、白河、郡山と北へ進むにつれて景色が変わる。まず山の色が違う。育ち盛りの力強い

緑がだんだん生まれたての柔らかな若緑になり、福島までくるとまだ枝が透けてみえるよう

な芽吹きの白っぽい緑となる。

福島の春はまだ浅かった。山桜もまだ残っているし、黄緑に薄茶や紫もまじる繊細な山肌が

すばらしい。

福島県は広い。直接地震津波の被害のある海岸沿いの町もあれば福島原発による避難地域に

指定された場所もあるのだが、ちょっと内陸に入ればなんの異常もなく通常どおりである。

郡山から幹線道路からはずれ、集落のある一般道路を走ると里の春を感じた。

家の庭も田んぼのあぜも道路沿いも花で溢れている。桜、自生の水仙、たんぽぽ、こぶし、

ぼけ、れんぎょう。家の人が植えたであろう芝桜、パンジーもくれんなどそこかしこが花な

のであった。

この生き生きと咲く花を見るとここに住んでいる人たちがいかに土地を愛し、いかにその暮

らしを楽しんでいるかがわかるような気がする。

ときどき、ブルーシートの掛けられた屋根や陥没した路肩など被災を思わせる光景があった

が、5月の空はあくまでも青く、風は爽やかで原発事故など忘れる穏やかな山里だった。

連休最終日と平日にかかる月曜日で観光客はすでに引き上げたあとなので、五色沼や帰りに

寄った大内宿などの観光地は閑散としていた。やっぱり自粛ムードなのかと、みやげもの屋

に聞くと連休中は意外と人が来てくれたと明るい顔だった。

さて、目的の旅館で友人である女将としばらくぶりの再会を果たし、様子を聞くと、磐梯熱

海は岩盤の固い地質なので揺れはほとんどなく、連休中思いのほか泊まり客が多く、用意し

た草もちが足りないほどだったという。

みんなでそれはよかった、と喜びながら、なら今晩心置きなく騒げるぞと、またまたよこし

まな発言があったりして、女将出席の宴会では旧交を温め、行動を起こしたことに間違いは

なかったとみんな満足したのだった。したのだった。


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