思いつくまま、気の向くまま
  文は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせいの人付き合いの広さ(?)がわかります。



地震余話

右を見ても、左を向いても腹が立つことか悲惨な話しばかり。そこで、ちょいと横丁へま

がるとこんな話しがありました。全部本当の話し。落語にでてきそうな人たちと付き合っ

ていると実に楽しいものです。


震源地はここ。

会社のワンボックスカーに相乗りして、順番に得意先まわりをしていた青年。

「最初に身体の大きい太ったやつが降りたとたんに車がグラグラ揺れたんです。そこで皆

で大笑いして『あのデブ』とか言いながら盛り上がっていたら、ますます揺れがひどくな

ったんです。へんだなと思って外を見ると、まわりのビルから人が走って出てきて道いっ

ぱいになったんで、そこではじめて地震だとわかりました」


テレビに足。

「地震なんともなかった」

「うちテレビが壊れました。それでお母さんの機嫌がわるくて」

「どうして」

「買ってからまだ二年しかたってない。近所で一番被害を受けたのは家だって」

「それはお気の毒」

「それだけじゃないんです。そのとき弟の彼女が遊びに来ていたんです。お母さんが弟に

『どうしてテレビを抑えなかったのよ』というと、『だって彼女を逃がさなきゃならなか

った…』と答えたとたん『あの子には足があるでしょ、テレビには足がないのよ!』って

本気で怒っているんです」


なには無くとも酒。

ようやくの思いで会社にもどったら、電話が不通で仕事にならない。皆で手分けして社内

の点検をしているうちに電車も止まり家に帰れなくなってしまった。しばらく帰宅の算段

をしていたところ、だれかが「飲もう!」と言ったとたんに四、五人が外へとび出し近所

のコンビニやスーパーへ走った。しかし、どこにも食べるものがない。しかたがないので

棚に残っていた冷凍食品とわずかな乾きもの、ビールがたくさんあったのでそれを買占め

て明け方の4時まで飲んでいた。ガスコンロで焼いた冷凍食品はとても食えたものではな

かったとか。


丈夫がとりえ。

出張できていた栃木県の田舎町で地震に遭った。

電車で来たので帰る足がない。だれも「家に泊まりなさい」と言ってくれないのでそこの

会社の倉庫でガタガタ震えながら一夜を過ごした。

あくる日、やっとの思いで会社に電話をいれると、「丈夫なお前を行かせてよかった」。

ねぎらいの一言もなかった。


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