●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんのベトナム旅行シリーズの5、ベトナム戦争の現場行きました。



ホーチミンの旅(5)

ベトナムは激動の歴史がある。ベトナム戦争である。

あの大国アメリカを唯一の敗戦にまで追い込み、疲弊させた戦争。国力が弱くたいした武

器も持たない小国ベトナムの凄まじい抵抗とはどんな様子だったのだろうか。

小柄で歳より若々しく見え、ちょっと内気な印象をもつベトナム人のどこにそんな激しい

闘志を秘めていたのだろうか。

現在、ホーチミン市の郊外・クチというところにベトコン(南ベトナム解放民族戦線)基

地が保存され、観光化されていた。

そこは高い木が生い茂るジャングルの中にあって、北ベトナム勢力によって掘られ、総延

長が約250kmに及ぶ要塞地下トンネル網であった。

トンネルはようやく人間一人が体をかがめて通れるくらいの通路がはりめぐさられ、要所

要所に作戦会議室、兵器改造室、宿舎、キッチン、医療施設などがある。

見て回る途中足のある巨大ミミズ、肌をさす獰猛な蚊や蟻塚に出会い、あらためて高温多

湿の苛酷な熱帯の環境を感じた。

ベトコンは戦える武器らしいものは持って居なかった。ジャングルへ攻め入るアメリカ兵

をやっつけるには頭を使うしかない。単純だがまるで動物を捕獲するように落とし穴を作

り、敵の体を拘束する罠を仕掛け、そして身を隠して待ち伏せする、そんな方法しかない。

落とし穴には、下に先のとがった槍のようにものが無数埋め込まれていてくぎ刺になるよ

うにしてあったり、落ちると2度と出られないようにさまざまな仕掛けが施してある。食

堂では煮炊きしても見つからないように煙は数十メートル先に出るように工夫されている。

鳥の鳴き声のほか何も聞こえない鬱蒼としたジャングル。どこに潜んでいるかわからない

小柄で敏捷なベトナム兵との戦い、慣れない密林で大柄で不器用なアメリカ人はさぞ恐怖

に陥ったことであろう。

戦争は泥沼化した。そして手を焼いたアメリカ人はトンネルの空気穴から毒ガスを吹き込

んだり、枯葉剤を蒔いたりしたのだった。

そのときすっかり枯れたジャングルは今では元通りに木が生い茂り、観光地として保存さ

れ、ベトコンの兵隊服を着てみせる係員がのんびり座って携帯電話をいじっていた。

しかし、この悲惨な戦争はいまだに両国にその後遺症は尾を引いているのは周知のことで

ある。


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