●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、異常気象のおかげで別の世界を垣間見たようです。



シリーズ 生き物をダシにして

夏の庭

我が家の庭がすごいことになっていた。

今年の暑さはハンパじゃなくて猛・極・激では足らず歴史的・記録的・が頭につくほど

なのだ。

それを言い訳にすっかり庭の手入れを怠った結果、雑草の天下となっていた。

私は決して雑草を目の敵にしているわけではなく、むしろ「雑草のごとくたくましく」

をモットーとしているくらいの大ファンだが、我が庭にところかまわず我がもの顔に雑

草にのさばられると話は別だ。手づから植えた草花や芝生が可哀想である。

私は先日、意を決して蚊にさされないように武装して庭にでた。固く根を張った草を取

っていくと、潜んでいたたくさんのショリョウバッタが災難にあったとばかりに逃げて

いく。

ああ、秋なんだなあと思いながら、私は緑色のシャープな形をした生き物がぴょんぴょ

んと飛び跳ねるのを見つめた。

彼らは逃げたけど私が居なくなったらまた元の所に戻るだろう。そして雑草がなくなっ

たのを見て、さぞ慌てることだろう。

「あれ、ねぐらがなくなっている!」

「なーに、まだまだ雑草はたくさんあるさ。あっちへ移動しよう」

「うん、雑草はまたすぐ生えるしね」

ショウリョウバッタはそんな会話を交わして何食わぬ顔でしたたかに今を生きるだろう。

私はちょっと感動していた。

暑い、暑いとクーラーの利いた家の中に居て、私が存在する人間世界が唯一絶対だと思

ったら大間違い。家の外へ一歩出たら季節は移り、こんな自分の知らない世界が広がっ

ているのだ。

秋の虫も、ミミズもトカゲも小さな昆虫たちがこんな身近なところで営々と生きている。

自分の見えることだけが唯一とは思ってはいけない。どんなことに対しても一つの視点

だけで見ていると、見えない世界を見落として自分の考えを狭くしてしまうのだなあと

思った。



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