思いつくまま、気の向くまま
  文は上一朝(しゃんかずとも)


シャンせんせいのガンリキエッセー。
シャンせんせい、思わぬ一本とられて、参りました。



お歳のせいです

常用している薬の副作用検査のために、年に1〜2回おなじ病院の眼科へ通っている。

診察の前に予備の検眼がある。毎回そこで困ることは、検査の返事につい専門的な言葉で答え

てしまうことだ。なにもわざとやっているわけではないのだが、分解能だとか解像度などと昔

の仕事のくせがでてしまう。

先日も「これはどうですか」と視力検査の問いに「コントラストはいいのですが、分解能が悪

いです」と口走っていたら、「よく見えなければ上らしいとか、左のようだ、と言う風に答え

てください」とい言われてしまった。トホホ…


本診に入り、ひととおりの検査がすむと、「なにか気になることがありますか」と聞かれた。

そこで「最近目が霞むときがあるので白内障が心配なのですが」と答えると、もういちど入念

に検査をして「白内障の心配はありません」ときっぱり言われてしまった。ふつうこのような

ときは「なんともありません。目が霞むのはお歳のせいです」というらしい。

担当医師は異なるが同じ眼科にかかっている愚妻は、なにを言っても「お歳のせいです」でか

たづけられてしまうと憤懣やるかたない顔で帰ってくる。

つづいて「視界が狭くなった気がする」というと再検査の後「視神経に異常はありません」と

前よりもキッパリと言われてしまった。これもふつうの言葉に訳すと「視神経に異常がありま

せんから、そう感じるのはお歳のせいでしょう」ということになる。

家にもどり、「おれの先生気をつかってか、お歳のせいですとひと言もいわなかったぞ」と自

慢しながらふと思った。

それは、検査技師から報告がいっていて、うっかり「お歳のせいです」と答えると、なにゆえ

に歳のせいなのか、などとややこしいことを聞いてくるにちがいない。そうなると面倒くさい

ので理詰めで答えたのではないか。

要は、こいつは面倒な患者であると…。ガックリ

そのように考えたら「お歳のせいですね」という言葉が急に恋しくなった。



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