●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
前回までのシリーズが終わり、今週からふつーのエッセー、太宰ブームについて。
太宰を見つけた!
駅で人と待ち合わせをした。
ちょっと早い時間についてしまい、何かして潰すには余裕がなく、じっと立って待つ
にはやりきれない中途半端な時間である。
さて…とつぶやき、ぐるりとあたりを見回すと2メートル四方ぐらいの小さな売店を
見つけた。真ん中に亀井静香に良く似たおばさんが立っていて千手観音みたいに客を
さばいている。
菓子飲み物からネクタイまで、移動のための必要グッズがなんでもありの品揃え。
そして本の棚を見て驚いた。太宰治の「人間失格」が4冊も置いてあるではないか。
こんな所でダザイねえ、西村京太郎のトラベルサスペンスならわかるけど…
今年は太宰治の生誕100年目。今、格差や閉塞感のある世情を反映して若い人の間
で読まれている人気の文学書ならではある。
私は中年になって読んだのだが、だからという訳ではなく、どうも太宰治は好きにな
れそうもなかった。
太宰は、自分ばかり不幸のどん底にあるのは自分が純粋すぎるから、そんな純粋な自
分にはこんな社会は生きにくいのだ、だから自殺する、と思い込んでいたようだし、
自虐の天才で、ダメ人間を自認している。そこが共感を呼ぶのかも知れないが、女性
を信用していないふしがあって、道具のように扱っているように思えてならない。
私だったら、一緒になんか心中してやるもんか・・・
愚にもつかない妄想を広げていたら、写真でみた太宰治の着流しの姿が浮かんだ。
女性が放っておけないようなあの整った、やさしい品のある甘いマスク・・・
「恥の多い生涯を送って来ました」
なんて殺し文句の1行を見せられて、迫ってきたら・・・
そのとき、待ち人がやってきた。