●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今週のもどきさん、名優たちとナマで接した喜び語ります。
芝居
劇場のエントランスに入ると強いユリの香りが満ちていて、芝居の華やかな気分に包ま
れた。ゆっくり花の贈り主を眺めながら、俳優たちの交友関係を想像する。
席に座って待っていると、これから観る芝居への期待と高揚感でどきどきする。あちこ
ちで交わされているひそひそとそして弾んだおしゃべりが劇場内をひとつの伴奏のよう
になって盛り上げる。
やがて開演を知らせる低いベル。ありとあらゆる照明が消され、暗闇と静寂が包み、一
斉に舞台に注がれる緊張の目。そして幕開け。
いよいよ「ドライビング ミスデイジー」のファイナル公演の始まりだ。
出演はたったの3人。舞台装置も居間、事務所、車のセットを舞台一堂にセットしてハ
イライトによって場面を転換させるという簡素なもの。こんな工夫された舞台装置も見
所のひとつ。
洗練されてエッセンスのようなセリフと場面なのに中身は濃い。
奈良岡朋子も仲代達也も私の大好きな役者だ。芝居には映画と違って役者の個性や味が
強くでる。演劇を引っ張るのも盛り上げるのも役者の技量。役者の息遣いをナマで見て
聞いていると役者魂のようなものが伝わってくるので芝居が好き。
最後になりやまぬ拍手に、カーテンコールがなんども行われる。舞台と時間を共有した
役者と観客の一体感を高め、これもたまらない。
帰り道、一緒に観た友人が、あれは将来の私たちの姿よ、とか、年取って黒人でもいい
からあんな友人がいたらいいね、とか芝居の感想をいっていたが、私はナマの“奈良岡”
と“仲代”のオーラにただ感動していた。