●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
新聞記事から表情を追加のシリーズ、おたまじゃくしの夢。



新聞ネタ独白シリーズ

空飛ぶおたまじゃくし

やー、ついに新聞ネタまでになっちゃった!

“珍現象、空からおたまじゃくしが降ってくる”だってさ。今や人間どもは科学で証明で

きなければ不安でたまらない時代に生きているから、真犯人は誰なのかって大騒ぎしてい

るそうじゃないか。鳥なのか、つむじ風なのか、はたまた人間のいたずらなのか、なんて

大真面目に研究者・専門家が予測のコメントを寄せている。

おかしいったらありゃしない。

夢がないなあ。

実はね・・・

泥水のような田んぼに住んでいるおたまじゃくしは一度でいいから空を泳いでみたいと考

えたんだよ。そこで、やはり泥水に100年も棲んでいるドジョウのおじいさんに相談し

た。ドジョウのおじいさんはひげをひねりながらこう答えた。

「空を泳いでみたいだって? やめとけ、やめとけ。水の中に棲むものが空を泳ぐという

ことがどういうことかわかってるのか? ま、できないことはないがね。魔法の水を飲め

ば空に飛ばしてあげることができるんだ。その代わり生きては帰れないぞ」

おたまじゃくしは自分とよく似た形の雲が浮かんでいる空を見上げながらよーく考えた。

そして決心した。

「おじいさん、僕を空に上げて!」

ボクも、ワタシも、何匹かが手をあげた。

そして雲ひとつなくカラッと晴れたある日、ドジョウのおじいさんからもらった魔法の水

を飲んだ。

おたまじゃくしたちはぐんぐん空へ舞い上がる。田んぼがみるみる小さくなってまるで将

棋板みたい。見たこともない町が、森が、道路が次々と現れては消える。風がぶつかる。

光がまぶしい。

と、そのときおたまじゃくしの体が乾いてきた。苦しい・・・やがて死んで…落ちた…

それで、おたまじゃくしが空から降ってきた、ってわけ。

仕掛け人はドジョウのおじいさんなのさ。


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