●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
新聞記事から表情を追加のシリーズ、本当に過ってたのだれか。
新聞ネタ独白シリーズ
誤算
それは晴天のへきれきだった。
東京の大学で学んでいるはずの息子が大麻を吸い、退学処分になったのだ。
はじめ何が何だかわからなかった。
だって息子は念願叶って難関といわれた大学に合格し、私、鼻高々だったんだから。てっき
り東京で真面目に学業に励んでいると信じて疑わなかったのだから。たいした反抗期もなく、
とてもいい子で勉学に励み、親の期待を一身に担った希望の星の息子だったのだから。
私たち夫婦は息子を大学に入学させるためにどんなにか苦労したことか。進学率の高い私立
の中・高一貫校に入学させ、高い授業料を捻出するために夫は小遣いを減らし、私はパート
に出て働いた。苦しい家計をやりくりして家庭教師までつけ、今は仕送りに四苦八苦してい
るというのに・・・
これはあまりにもひどすぎる。息子の人生はもうお終いだ。世間に顔向けができない。
いままでの苦労はなんだったのか。まったく水の泡になってしまったではないか。
そりゃあ、親元を離れて寂しいときもあったかもしれない。慣れない都会生活でストレスも
あったかもしれない。なぜ大麻などに走ったのか。麻薬という悪魔のささやきになぜ誘惑さ
れてしまったのか。もう悔しくて悔しくて怒鳴りつけてやりたい。
私はなんども読んだ学生の大麻事件を報じる新聞をまた読む。ふと、そのとき記事の横に大
企業の正社員のリストラ記事も載っているのに目を留めた。
今、不況の嵐が吹き荒れて、まずあの高給取りの外資系サラリーマンが解雇され、派遣切り
があり、さらに正社員の首切りがなされようとしており、雇用の悪化に歯止めがかからない
という内容だった。
私は考えた。
まてよ、いままで息子の幸せ=生活の保証された仕事=大企業に就職=一流大学卒業、そん
なレールを信じて疑わなかったけど、世の中変わりつつあるのではないか。
そう、私はようやく気がついたのだ。経済は刻々と変化し、年功序列が崩れ、大企業が必ず
しも生き残れる時代ではないことを。
親の浅はかな思い込みで間違った教育をし、一番大切な強い心を育てなかったことになる。
だからこそ息子はこんな不祥事を起こしてしまったのだ。
いつの時代にも必要なのは自分で律して自分で生きる力。
息子よ、人生はまだ長い。立ち直って自分の生きる道を自分で見つけてほしい。これは勝手
な母からの願いだ。