●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさん、おとぎ話にアメとムチの悩みを読み取ってます。
因幡の白兎
小学校1年生のとき、学芸会で「因幡の白兎」という劇をした。
隠岐(おき)島の兎が因幡(いなば)の国に渡ろうとして鮫をだまし、最後に鮫に捕
らえられて皮をはがれ、通りかかった大国主命に助けられるという神話である。
大国主命は大黒様ともいわれ、良い神様でその配役は学年で大柄な落ち着いた男子が
選ばれ、白兎は小柄なハキハキした女子が選ばれた。やせてノッポだった私は悪い神
様である大黒様の兄たちの一人に選ばれた。
♪大きな袋を肩にかけ 大黒さまが行きかかると
そこへいなばのしろうさぎ 皮をむかれて赤裸♪
合唱隊が歌うと神様たちが舞台の袖からしずしずと中央の浜辺へと進む。そこに白兎
がうずくまっている。
悪い神様たちは、兎の赤くむけた皮膚に塩をつけたら治ると嘘をいう。
今でも覚えているが私のセリフは「どれ、水を汲んでこよう」。そういって海水を兎
にかけるのである。
ところで、兎はふさふさした白い毛に赤い目をして耳が長く愛らしい動物である。だ
が、やさしい外見とは裏腹に昔からどういうわけかずる賢かったり、油断がならない
イメージがつきまとう。亀と兎の駆けっこの話にしろ、カチカチ山の話にしろ、どち
らかといえば悪役である。
古い古い話の因幡の白兎は、大黒様に助けられたにもかかわらず改心せずにその後も
おとぎ話の中で小さな悪事を重ねるのだ。
はたして悪い神様のように塩水をかけて懲らしめるのがよかったのか、大黒様のよう
に真水で洗ってがまの穂綿にくるまるようにとやさしくするのがよかったのか。
厳罰に処した方がいいのか、穏便に処して本人の自覚を促すのがいいのか、裁判員制
度が導入されるのを前に考えさせられることである。