●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさんは、自然としての女の強さをふと思いました。
ささやかな発見2
スーパーでとびきり生きのよい秋鯖を売っていた。
鮮やかな青地に黒の網目模様。玉虫色の輝きが加わってぴかぴか光っていた。
もちろんためらわずに買い、味噌煮にしようと思った。
台所はまた殺生の場になった。
鯖を丸ごとまな板の上にのせ、よく研いだ包丁をしっかり握り締めてまず頭をブスリと
落とす。コツリと骨の固さを手に感じながら、内臓を取り、次々とさばいていくうちに
みるみる赤い血のりがまな板にも包丁にも手にも染めていく。
私は当然のことのようにもう、なんとも思わない。
頭の中はおいしい鯖の味噌煮を作ることでいっぱいで、気持ち悪いとも、まして鯖の立
場なんて何も考えない。
私にとって繰り返し行われる飽き飽きするほど変わり映えのしない手仕事なのである。
もう、数え切れないほどこうやって台所に立ち、生きていたものを料理してきた。ある
ときは鼻歌まじりに、あるときは鬱屈や気がかりをかかえながら・・・
女とは虫も殺さぬ笑顔を作りながら、日常に他のいきものの命を奪って生きる人間の残
酷さを知らず知らず味わっていくのだ。
こうした体験はつもりつもって芯のようなものになり、むしろ女の穏やかさを際立たせ、
女の視線を深めていくのではないだろうか。