12/7の日記          文は田島薫

巨万の富とトランジスタラジオ

ここんとこ休日に仕事なんかやっちゃたりしたことが続いたもんで、今週の土日はのんび

りと過ごすことにして、なんにもこれはということはしなかったもんで、何も日記に書く

ことはない、おわり、ってのもなんだから、ちょっとなんか書いとこう。

朝、美術番組見たら、最近改築した青山の根津美術館と
根津嘉一郎が収集した美術品を紹

介してて、作者不詳の那智瀧図や尾形光琳の
燕子花(かきつばた)図をみんなで褒めそや

してたんだけど、瀧の方はいいとしても、かきつばたの方は悪い作品じゃないんだろうが、

光琳の作品としては、紅白梅図にくらべるとちょっと軽く、一要素のくり返しで「空間を

埋めた」、って手法なわけで、作品的な価値は、同じく一要素を使っての長谷川等伯の


林図の「空間を見せた」に及ばないよな、って失敬なことをいつも思いながらながめるん

だけど、どちらも名作として莫大な金額で根津さんが買い取ったもんだし、貧乏人が余計

なこと言ってもだれも耳は貸さないだろう。根津さんは日本の国際的地位向上のため重要

な文化保護の観点で、美術品が海外に流出するのを食い止めるため巨費を注ぎ込んで膨大

な収集をし、最後には施設ごと全部公に寄贈した、ってえらい人なのだ。

そんな金持ちの巨額な金の鮮やかな使い方を見た後の午後、貧乏人の私は電器屋に修理を

頼んでおいた5〜6千円で買ったトランジスタラジオを自転車で取りに行った。

このラジオは茨城にいるおふくろが入院すると聞き、病院で退屈するだろうから、って買

って持って行ってやったもんなんだけど、病院の部屋にはテレビがついてるからラジオは

いらない、って受け取り拒否されてまた持ち帰って来たもんで、先日、知り合いがラジオ

に出るって言うんで居間のオーディオのラジオチューナーで聴いてて、その後、ちょうど

風呂の時間にぶつかるから続きは風呂場で聴こえるとこにヤッコサン置いて聴こう、って、

それをつけてAMに切り替えてみたら全然音がしないことに初めて気がついたのだ。

まだ保証期間だったもんで、買った電器屋に金曜に持って行ったところ、その時は修理に

1週間ぐらいかかる、って言われてたけど、土曜の雨の日、新品と交換することになった、

って電話があったんで、晴れた日曜に出かけた、ってわけなのだ。

メーカーの方もそんなの受け取りに行ってから修理してまた返すより新品と交換しちゃっ

た方が人件費もかからない、って判断したんだろう多分。

しかし、久々に聴いてみるトランジスタラジオ、なかなかいい音で、多感な高校生の頃な

どは、ほとんどこれだけで四六時中音楽を楽しんだもんだったし、今だってそうしようと

思えば高価なオーディオセットなど不要で満足しちゃうぐらいの音質なもんだから、生活

を楽しむのにそれほどの金は必要ないんだな〜、って感じたのだった。


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