●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさんは、箴言を再確認しています。


人生に必要なものは?

秋の展覧会に出展したときのこと。

お仲間のT老人は、初日の飾りつけの際皆に、「私はお役に立てないのでこの人が代わり

にスタッフとして参加します」と、一人の屈強な若者を紹介した。

たぶん、彼はアルバイトとして日当を払って雇われたのであろう。会の力仕事を一手に引

き受け、我々は大いに助かった。

また会期中、私はそのT老人と組んで受付をすることになった。

再び、T老人は「この人が私の変わりに受付を担当します」と、今度もやはりバイトの若

い女性を連れてきた。3人になったので私はとても助かった。

聞くところによると、T老人は実業家で成功し、多くの財産を残したお金持ちであった。

私はやはりお金の力はすごいと思った。自分の体が衰えてもお金があれば、人を雇ってで

も、展覧会に参加し、好きな趣味を続けることができる。世の中、ある程度の困難はお金

で解決できるのではないかと考えた。


後日、ある集まりで人生に必要なものは? という話になった。

それぞれ、一に健康、二に心の平安、三に家族とか、その他生きがい、愛、金とかの言葉

が飛び交った。

私はこのT老人の話をしてみた。

すると、ある人が、お金はないよりはあった方がいいけど、万能ではない。この場合は周

囲の人に愛があれば、このT老人に無償で手を貸して、みんなの力で展覧会参加を果たせ

たはず。というのであった。

私はなるほど、と感心した。T老人に徳があれば協力者が現れ、お金で解決しなくても思い

は達成する。ずっとその方が美しいと思った。

ちなみにチャップリンの言葉に、人生に必要なものは、一に愛、二に勇気、三にわずかな

お金というのがある。

至言であろう。



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