●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
新聞記事から表情を追加のシリーズ、むずかしい問題。



新聞ネタ独白シリーズ

人の死とは…

おばあちゃんは老人病院で96歳を迎えた。

寝たきりで意識もない植物人間状態である。

食道に穴を開けてチューブから栄養を補給して生きながらえている。

声をかけると目がひくひくし、体をさすると顔をしかめるのでちゃんと生きている反応は

ある。

お母さんが

「いつ死んでもおかしくないのによくがんばってるわね。死にたくても死ねないのが今の

医療なのね」

というと、伯母さんが

「わからないからって本人の目の前でそんなこというもんじゃないわよ。病院代も本人の

年金で賄っているんだから誰にも負担はかけてないわ」

とたしなめる。

二人ともおばあちゃんの実の娘なのにあけすけによく言うよ。

でも考えてみると、おばあちゃんはただ寝てるだけの物体のような存在だけど、こうして

おばあちゃんのもとに年に数回だけどおばあちゃんの子供、孫たちが訪れる機会を与えて

いる。この求心力はやっぱりすごいと思う。当然、心臓が動いている限り生きていて、お

母さんはおばあちゃんの娘でいられ、僕は孫でいられるのだ。


7月13日、臓器移植法改正案が参院本会議で可決、成立され、脳死は人の死と位置づけ

られた。移植医療時に限定されるとしながらも、こうした人の死の定義変更には納得がい

かない。


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