●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今週からもどきさんの新シリーズ、新聞記事から表情を追加します。
独白シリーズ
大阪ド根性
あては生まれも育ちも大阪育ち。今や生粋の大阪のおばちゃんや。
71歳やけど体が元気なうちは働くのが一番と思うてる。
それで自転車で10分ほどのお弁当屋で働いてますねん。体を動かしながら仲間とお
しゃべりして楽しみながらお金もらえるんやから一石二鳥や。
大体、大阪人は現実的でえげつないなんて東京の見栄っ張りな人たちと比較されるけ
ど、要するに地に足がついとるねんやわ。
ところで、事件は店に出勤する途中で起きましてん。
朝8時頃だった思うんやけど、いつものように自転車に乗って店に向かっていて、春
の明るい日差しが前からあたって眩しいくらいやった。いい季節になったんやなあ、
と鼻歌でも歌いたいような気分でペダルこいでおりましてん。
そのとき突然、後ろから自転車でスーっと黒っぽい影が寄ってきたと思うと長い手が
伸びて、前かごに入れていたあての手提げバッグをとるやんか。
あっ、ひったくり!とびっくりしたけど、すぐ取り返したる!と猛然と後を追いかけ
たんよ。男はなんや自転車の具合でもおかしかったのか、すぐ自転車を乗り捨てたの
で、しめた!とあてもすかさず降りて腕をつかみ、もみあう、振り切る、逃げる、追
う、捕らえる、まるでテレビの捕物みたいに大活躍や。
とにかく、腹が立ったので絶対つかまえたろの一念やったけど、捕まえてみたら犯人
が若い子でしてん。前途ある若者を警察につきだすのは気の毒やったけど、しょうが
おへんがな。
ま、これが筋金入りの大阪のおかんの心意気ちゅうわけや。
財布にはいくら入っていたかって? 110円。フフ