9/29のねこさん 文は田島薫
動物園のでかいねこさん
ここんとこ、ねこさん、見るのはほとんどとなりのバレエ教室の梅ちゃんとうまちゃ
んだけ、梅ちゃんはなでられるまま、うまちゃんはゆっくり逃げる、って、だけで特
に話すほどのことはないもんで、困った。
どっかで、ねこさん見なかったっけかな、って考えたら、そうだ、こないだ上野動物
園で見たでかいねこさんがいた、ほら、みんな知ってる、そう、トラとライオン。
トラの方は忙しく歩き回ってて他の動物たちと同じように、狭い場所から出られない
無念さをイライラ表現してるのか、しょうがないってあきらめ、とりあえず運動不足
は身体に悪いからウォーキングだ、っていうのかどっちかだろう。
大はしゃぎしている家族連れといっしょにとなりのライオンのオリの方を見たら、メ
スライオンを沢山まわりにはべらしたたてがみのボスといきなり目が合った。
オスラインはやつれた少し青白いような顔で悲し気に私だけををじっと見てる(よう
な気がした)。そうしたらテレパシーで彼の辛さが伝わって来た(ような気がした)。
彼は顔を私に向けたままじっと動かなかった。
狩りをしなくても決まった時間になるとエサをもらえるもんで、何匹ものメスライオ
ンたちはみなごろごろと寝転がって眠っている中でボスのオスだけは、目を開けて、
無念さに耐えてる風だ。
野生でも狩りをするのはメスライオンかもしれないけど、凶暴な敵の出現など緊急の
時はオスがメスたちを守ってその力を証明するわけなのにその機会はこの場所にいる
限り永遠にやって来ないのだ。
おや、ちみにはぼくの無念さがわかってもらえてるよーだね、ちょっとうれしいかも、
って目が言った(ような気がした)。