●連載
虚言・実言 文は一葉もどき
横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
今回のもどきさん、友人の自己陶酔に共鳴してます。
ステージに立つ
7月14日はフランス独立記念を祝うパリ祭。それに合わせて友人の通っているシャンソ
ン教室では毎年7月にはパリ祭コンサートが開かれる。
シャンソンといえば、ドラマ性のある歌詞で一種の語りの世界である。当然、人生・愛・
別れ・哀しみ・反戦などの歌詞がならぶ。それに陶酔した男女がスターのように歌ってみ
たいと集まったのが当の教室である。
今年は19日に内幸町ホールでコンサートが行われた。
ホールの観客のほとんどはやはり着飾った知人・友人・親戚で占められ、日常を抜け出し
てつかの間の夢の世界に浸ろうと高揚していた。
場内が暗くなった。待っていたように腹の底に響くピアノ、ベース、ドラムの音。曲はあ
の聞き覚えのある“パリ祭”だ。曲が終わると、酔いどれ男の演技で司会者が出てきてパ
リの酒場の雰囲気に盛り上げる。一気に気持ちがシャンソンのムードになった。なかなか
うまいオープニングである。
会場もすばらしければ、出演者も素人とは思えないすばらしさ。
いよいよお目当ての友人の出番である。曲目は“哀しみの終わり”。
バックバンドが鳴り、ゆっくりステージの中央に進む友人。衣装を凝らし、メークをほど
こし、そこにはあの見慣れた普段の友人の姿はなくひとりのスターがいた。
スポットライトがあたる。
その瞬間・・・
<ああ、観客の目がすべて私に…この晴れがましさ。夢に見たこの一瞬。さあ、その気に
なりきるのよ。一切の不安はないわ。あるのは自信と観客との一体感。
そう、私は歌の主人公。いつも掃除洗濯料理にあけくれる平凡な主婦なんかじゃないわ。
もう一つ別の世界をもつ私。なんてステキなんでしょう。なんと誇らしいことでしょう。
これからどんな困難があってもこの拍手さえあれば、きっと乗り越えていけるわ>
友人の思いがシャンソン風に私の心に届く。“人生の賛歌”を歌っているのかもしれない。