7/14のしゅちょう             文は田島薫

(村上春樹の芯について)

何年か前の女性雑誌に連載されてたエッセーをまとめた彼の本を読んでたら、なか

なかおもしろくて、それについてとやかく解説するのは野暮なんだけど、なんだか

後でちょっと考えさせられる話があったんで、ご紹介と蛇足感想を。


ひとつ目はさほどおもしろくないんだけど、ドイツのラジオで村上春樹作品につい

ての紹介があり、それに出演していた老批評家が、彼の作品について、「こんなの

文学じゃないファーストフード文」だ、って言って怒り、13年続いてた番組レギュ

ラーを自ら下りたって話。

(こっからは私のつまらない蛇足発言)村上春樹は欧米でも大勢の読者に支持され

る一番人気の作家なもんで、文学を苦難と人間感情の錯綜したものと限定したがる

批評家などからの風当たりは強いんだろうことは想像できる。


で、ふたつ目は、デンマークだったかどっかの街の小さな動物園へ行った時の話。

ウィークデーだったか、客がほとんどいなくて、くまのオリの前に来たら、ちょう

どオリの中へ近くの木から散って来た葉を1枚キャッチしたくまがそれを食べたん

で、野菜サラダを食べたくなることは自分にもあるから、ってそばの葉をとって投

げてやったら、食べるもんで、それを何度もくり返した、って話。

(こっからは私の蛇足発言)これも他愛ない話で、同じような状況になった子供な

らだれでも夢中になってやりそうなことだけど、それをいい大人がやってるって図

が、なんだかとてもいいな〜、って感じたのだ。

多分そのくまはオリの外で彼に会っても、彼だけは絶対襲ったりしないんじゃない

かな、って感じた。もっとも、くまは理由なしに人を襲ったりはしないらしいけど。

で、結論で言えば、相容れないように見える関係に対しても、決めつけたりしない

で常に正直なコミュニケーションをしたい気持を持ち続けている、って言うのが村

上さんの作品の強さなんじゃないか、って、これは、われわれ自身だって忘れては

いけない大テーマだ、ってことを実は大勢の人々が心のどっかで知ってるのだ。




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