●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんが先日行った旅行の旅行記連載5回めです。



大連こぼれ話

土産苦


PCにそのメールが入ったのは大連へ行く1週間前だった。内容は大連に行くのならぜひ

天然石をあしらった携帯ストラップをおみやげに欲しいというものだった。このようなも

のといくつかの見本の写真まで添付した念の入れようだ。どうやら大連へ以前いったこと

があり、そこで買ったストラップが気に入ってまた欲しくなったらしい。

(ちょっと、待ってよ、お餞別もくれないでお土産をねだるわけ? ふん、人の気も知ら

ないで。こっちは自慢じゃないけど買い物下手で気の利いたものを探すのは得意じゃない

のよ、もー、せっかくの楽しい旅行をおみやげごときで気を遣いたくなーい!)

私の心にふつふつとメンドクセー感覚が沸き起こった。しかし恩ある人の頼みなので嫌だ

とはいえない立場なのであった。まったく構図は元守屋事務次官のあのおねだり妻と同じ。

世の中の不条理を嘆くしかない。

私は遠足を前に宿題を言い渡された小学生のような気分で見本の写真を印刷し旅行バッグ

に入れる。

旅行の1日目、この重荷を早く降ろしたいとまず泊まったホテルの売店に駆け込んだ。値

段は結構高いのだがなんとなく安っぽい。まてよ、これはしっかり商品知識を頭に入れて

他と比較せねばならぬ、と本能的に主婦的堅実思考が頭をもたげたのであった。

そもそも中国は天然石の宝庫である。見学する博物館でもおみやげ屋でもメノウ、ヒスイ、

水晶、猫目石、柘榴石などを細工した工芸品がずらりと並ぶ。わずかな滞在期間でもその

気になれば目を肥やすことができるのだ。

たまたま旅順へ行った帰りの途中で天然石の加工工場へ寄る機会があった。加工工程を見

せて最後にできた商品の売場に案内するという定番の観光客がカモになる商法である。で

も品質の確かさから私は頼まれた土産を買うのはここしかないと決めた。

見本のプリント片手にストラップ売り場で物色。狙いどおりのものが見つかった。値段の

交渉に入るとひと悶着が起きた。電卓に数字を入れる私に店員は首を振り、マケナイとい

うのである。工場直売の権威をかざしているのは見え見えだ。たまたまそこにツアーメイ

トのお節介おばさんが助け舟を出してくれた。

「じゃあ、もうひとつ買うからそっちの方をまけなさいよ」と中国語で交渉してくれた。

結局10元割り引いてくれたけど、なんのことはない余計なものを買う羽目になったのだ。

これってほんとに助け舟?

なにはともあれ、重荷をおろしてめでたしめでたし。


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