●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
もどきさんが先日行った旅行の旅行記連載2回めです。



シリーズ 大連みやげ話

衝動買い


明るい午後の日差しが降り注ぐ旧ロシア人街を歩く。

暑くも寒くもなく爽やかである。

昔帝政ロシア時代の官庁街だった所で、今は大改装して歩行者天国の観光通り。両脇にロ

シアをイメージさせた商店の建物とその前には露天商がずらりと並ぶ。まるでおもちゃ箱

をひっくり返したような色彩の氾濫だ。その中でひと際くすんでいる建物が元市役所、図

書館、後藤新平が差配したという船舶会社で文化財指定の本物で、他のはロシア風に新し

く造られた偽物である。

ぶらぶら歩いていると、両脇の店はどういうわけか双眼鏡、望遠鏡の店が多い。そして人

形やらおもちゃ類を並べた露天商の呼び込みもすごい。ちょっと立ち止まって手に取ろう

ものなら電卓をもってすっとんでくる。アブナイ、アブナイ、油断すると粗悪品をつかま

された挙句ふっかけられるぞ、とまだ1日目なので私は緊張していた。

ところが魔がさしたというべきか、素朴で笑顔のかわいい少女と目があった。私は吸い寄

せられるように近づき、品物を手に取っていた。これも素朴でかわいいロシア人形であっ

た。今回の正規中国語受講生である夫(私は付録の参加)を通訳にして値段の交渉。100

元を70元にまけさせて衝動買い。(1元は約15円)

実は私普段買い物下手なので、真っ当なものを買おうとするときは、いいものをリーゾナ

ブルでと欲を張り目も血走り緊張しまくるが、こんな旅先の衝動買いは後悔してもいい思

い出になるからお気楽である。そして当然後でこんなかさばるものを買ってと後悔するこ

とになる。

人形売りの少女とは「どこから来たの?」「日本から」「こちらは初めて?」「そう」な

んて会話をして満足した。

それから、またまた宿泊ホテルの前で日本語を話すさくらんぼ売りのおばちゃんから「ま

けるから」の一言で衝動買い。部屋で食べようと思ったのだが、これも部屋にはウエルカ

ムフルーツがあってまたまた後悔。

買い物のやりとり際、私は見てしまった。おばちゃんのエプロンのポケットから日本語の

アンチョコが覗いているのを。生活がかかっているから必死なのである。「上手になるに

はああでなくちゃね」と夫にあてつけのように言ったら睨まれた。


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