●連載
虚言・実言         文は一葉もどき


横浜が縄張りの元タウン誌ライター。
貧しさにもめげず言の葉を探求し、人呼んで“濱の一葉”。
ウソ半分、ホント半分の身辺雑記を綴ります。
シリーズ16回め。これはけっこう共感者の多そうな話です。


シリーズ リポーター奮闘記

お仏壇

友人があこがれのベイブリッジの見えるマンションへ引っ越した。

いわく、

「眺めはいいし、間取りも快適で便利。もう舞い上がっちゃってこの際とばかりに無理

してスウェーデンの輸入家具で統一しちゃった。ちょっとしたセレブ気分ね。でもねえ、

ひとつだけ困ったことがあるの。お仏壇・・・」

ここで友人は眉をひそめる。昔ながらのお仏壇が部屋の雰囲気に似合わないというので

ある。

たしかに超モダンな洋風の部屋とあの黒いお位牌に金ピカの須弥壇では違和感があるの

だろう。

「日本間さえないのに仏間なんて叶うわけもないし、今のところ置き場所がないからク

ローゼットに置いてあるの。でもモノが物でしょ。なんか邪魔にしてるみたいで後ろめ

たいのよ」

“みたい”ではなく、まさに“邪魔にしてる”ではないか。このバチあたりめ! ご先

祖様が化けて出るよ、と私は脅かしといて、以前広告文を手がけた現代仏壇を紹介した。

現代仏壇とは洋風のライフスタイルに合わせたモダンなデザインの仏壇。飾り棚風のも

のから豪華な家具調のものまである。洋風化の一途を辿る現代は友人のような悩みを持

つ人が増えたのであろう。インテリア仏壇が出てきても不思議はない。

しかし、荘厳な雰囲気こそ極楽浄土と刷り込まれた頭にはインテリア仏壇はちっとも有

難みがない。これをどう宣伝しようかと悩んだ末、私は“仏壇は大切な人を祀る心をカ

タチにしたもの。故人と対話する場所、心安らぐ場所。だからお仏壇は毎日の暮らしの

中心にあるべきもの”と捉え、“部屋に溶け込む仏壇”を紹介した。

果たしてその後どれだけ売れているのかはわからないが、つくづく世の中が変われば仏

壇も変わる、人の信仰心も変わっていくのだなあと思った


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