8/4のしゅちょう             文は田島薫

(池谷薫の仕事について)

1945年8月15日、連合国に無条件降伏した日本の海外に派兵されていた将兵たちは

全員武装解除され日本に帰ることになったんだけど、中国山西省にいた将兵2600人

はひとりの司令官の自己保身の犠牲にされ、残留させられ、中国共産党軍と終戦後

3年8ヶ月もの間戦わされ、550人が戦死したのに、それが将兵たちの自由意志によ

るとされ逃亡兵の汚名まで着せられる理不尽に怒った元残留兵たちが、軍命だった

ことを訴えて裁判で争っているといった主軸を持った「蟻の兵隊」その他、を撮り、

内外で評価されたドキュメンタリー映画作家の本、池谷薫著「人間を撮る」(平凡

社/半藤一利のベストセラー「昭和史」を企画した山本明子の企画)は、4本のド

キュメンタリー映画制作過程について書いてるんだけど、とりあえずその「蟻の兵

隊」の分について。

これはその残留兵ひとりを主役にして、ずっとその行動を追って行く形のレポート

なんだけど、始まりは軍の一部の策謀による戦争犠牲者といった立場からのスター

トの後、その戦時での、無抵抗の中国人民間人に対しての、「肝試し」、銃剣で刺

す、といった加害者的側面とも当人が正面から向き合うという、正に、戦争の現場

そのものについての視点に絞ったドキュメント、戦争がもたらす、ひとりの普通の

善良な人物が鬼にもさせられる状況。

読後、「昭和史」と合わせて考えてみれば、姑息な自己保身のために多数の人間を

見殺しにする上官も、辿れば、その上層部によって、不本意に殺りく団体行動を強

制された犠牲者でもあるのだし、その本当の戦争犯罪者と言えばその責任はどんど

ん上層に上がったあげく、けっきょく、その最上部で、例えば、東条英機や天皇で

さえ、実は戦争反対だった、って話になるのだから、わけのわからない短絡的判断

の積み重ねが愚かしい状況を作って行く、ってことのわけで、それにもかかわらず、

その危険性について無自覚極まりない人間が今でも生存し、意見言ったりしてるわ

けだから怖い。例えば、ぼんぼん出身の石原都知事とか、同じくジョージ・ブッシ

ュのような、戦争の現場での地獄の経験もなくイマジネーションも不足の人間が。

普通のはずの感性で生きてきて、信じさせられたものに裏切られたり、不本意に自

分自身が鬼になったような、どうしようもなく救いのない愚かな状況を経験した人

間が、また戦争を肯定するはずはないわけで、身を削りながらそれを訴えるドキュ

メントは今、日本にどれくらいあるのか知らないけど、鋭くて重要なメッセージだ。




戻る